第136話

 なんで、どうして。

 そう訴えるマルティレスさんに父様は勝ち誇った顔で『皇女がそう言っているんだから帰れ!』って追い出した。


 とはいえ、現状では創造神の神殿から聖女認定が下って、お迎えに来てしまった……という事実そのものは周囲にしれてしまっているだろうとのこと。

 まあ、あちらとしては隠す必要もない堂々としたものだし、大国の皇帝に謁見を申し込んでいるんだから、この国に到着するまでの間で知られているとしてもおかしな話じゃないしね。


 問題はそこじゃない。それも問題だけど。

 

「創造神の聖女という存在は、過去にもいろいろと問題が起きている」


「問題、ですか?」


「ああ、そうだ。創造神は他の神々と違い、世界をお作りになった後は長い眠りにつかれたと神話の中にある」


 創世の神話を語るのはオルクス兄様だ。

 ヴェル兄様が説明しようと思ってくれたけれど部下の人が連れて行ってしまった。お仕事溜まってるんですって!


 まあ例の謁見の後、知るべきことは知るべきだ……というオルクス兄様の声で婚約者候補たちと私が集まって円卓を囲んでいるワケなんですけども。


 さて、問題の創世の神話だ。

 創造神さまはご自身の子である数多の神と共に世界を作った、とされる物語。


 どこまでが真実でどこまでが嘘かなんて、そいつはわからない。

 なんせ誰もわからないくらい昔々の話だからね。

 ただまあ、今ある創造神の神殿の大元……古代の神官たちが各地に散らばる神話や口伝を集めて『こうじゃないか?』と辻褄つじつまを合わせたものなので、妙な部分があるのもご愛敬ってヤツらしい。


 あれこれ文句をつけるより、頑張った人たちがいてくれて、その人たちが神々への感謝の気持ちを深め今に繋がるという部分を重視すべきだと神学者たちは言っているそうだ。


 ただまあ、世の中はそういい人たちばかりではない。


「……とまあ、神話によれば創造神が眠りについた際に神々は生き物たちと約束を交わした。神々の暴走が、生き物たちの暴走が、この世界を混沌とさせてしまうような事態を引き起こす可能性は否めない。勿論、互いにそうならないように心がけることが大事だが、そうなってしまった時には神子を通じて呼びかけよと、まあ要約するとそんな感じだな」


「別に変な話じゃない気がする」


「そうだな、それだけならば戒めの言葉に過ぎないと思うものだ」


 神様ってのが実在するかどうかっていうと私にはわからないけど、とにかく〝神は凄い力を持っているけれど命短い生き物たちの心は理解できない〟とされていて、その命短い生き物……人間だけじゃなくてこの場合は生けとし生けるもの、つまり動植物全般を示しているんだけど、それはそれで〝自分たちの繁栄・繁殖のために時として過ちを犯すこともある〟としているとのこと。


 うーん、昔っから難しいことを考える人はいるんだね!


「問題は、その『神子を通じて呼びかけよ』という部分だ」


「え?」


「つまり、創造神に認められた存在が神に働きかければ世界のやり直し、作り直し、あるいは端的に破壊ができると考えるものたちがどこからともなく湧いてくるんだ。定期的に」


「定期的に……!?」


 なんだそれ、抜いても抜いても生えてくる雑草みたいだな……!?

 思わず情緒もへったくれもないことを考えちゃったけれど、幸い兄様には気付かれなかったようだ。


「創造神の神殿に立てこもりをしたり、生贄を捧げたり、高位神官を洗脳したりとまあこれまでの歴史上いろいろとやらかす連中がいる」


「うわあ」


「つまり、何が言いたいかというと今回創造神の神殿から堂々と聖女を迎えるという行動に出たがゆえに、我らが妹はそいつらの・・・・・標的にされかねないというわけだ」


 前回そういった〝聖人〟に名を連ねるような人、もしくは〝聖女〟に認定された人は少なくとも百年以上前だそうだけれど、その際にも巡礼に襲撃があって誘拐寸前までいったとかそういう記録があるんだそうだ。


 だからこそ今回は神殿も先手を打って、堂々と公表して入ってもらってついでに帝国の武力で神殿ごと守ってもらえば……とか考えていたんじゃないかっていうのがオルクス兄様の見解である。


「はた迷惑な!!」


 私が思わずそう力強く言ってしまったとしても、悪くないと思うの。

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