第134話
「陛下のみならず尊き御身に拝謁の栄誉を賜り誠に恐悦至極に存じます。創造神様の神殿にて司祭を任ぜられております、マルティレスと申します」
「……久しいな、マルティレス殿」
「は、初めまして!」
兄様はどうやら面識があるのか、軽く会釈をした。
それに倣って私も挨拶だけしておく。
けれど父様はそれすら不満そうだ。
「ちっ……思ってもいないことを! まったく……さっさと要件を言って帰るがいい!」
物腰柔らかに私たちに向けて頭を下げるわけではないけれど、礼儀に則った態度を見せるマルティレスさん。
年齢は父様と同じくらいらしく、父様はやたらと攻撃的だ。
目を丸くする私に、どこからともなく現れた父様の小姓さんがそっとサイドテーブルに飲み物を置いて優しく微笑んでくれて、ええ、カオスぅ。
「姫様、本日は果実のジュレを炭酸で割った飲み物をご用意させていただきました。お気に召さないのであれば他のものをご用意いたしますのでお申し付けください」
「う、うん。ありがとう」
「それと、マルティレス様は親しきご友人のお一人にございます。あの会話は通常運転ですので、どうぞお気になさいませんよう」
「えっ」
父様のおともだち……!!
その割には初めて会ったけど。
目を丸くする私に、父様が大きな咳払いをした。
「親しくなどはない。俗名を捨てる前のこやつは確かに帝国人であり、とある貴族家の三男だったから余と年齢が近いから城に召し上げられ、見知った相手になっただけだ。気がついたら勝手に俗世を捨てただの言い始め国を出ておった恩知らずよ!」
ははーん、つまり俗にいう遊び相手ですね!
で、私も十年も父様の娘をやってりゃその言葉の意味を察することができるわけですよ。
父様の言葉を意訳するとこうだな?
『昔は仲良しだったけど勝手に出家なんかして全部捨てやがって! 相談くらいしてくれればいいのに内緒で出て行きやがって、まだ怒ってるんだぞ!!』
ってところじゃなかろうか。
うん、仲良しじゃないか。
「ははは、陛下におかれましては相変わらず気が短いご様子。妻子を数多に迎えるこの国一番の果報者である御方がそれでは猛き炎で身を焦がされないかと臣民は戦々恐々の日々でございましょうなあ」
「なにを……!?」
「これはこれは、失礼を申し上げたようで謝罪いたします」
う、うーん?
なんだろう、とっても柔和な雰囲気なのに口を開けばこの刺々しい感じ。
でもさっきの小姓さんの発言からするとこれが二人の普段のやりとりってことでいいのか……?
(不器用にもほどがないかな?)
そもそも私に話が合って呼んだんじゃないのかと。
二人が舌戦を繰り広げる中ポカーンとそれを眺めながらジュース飲んでていいのかと。
でも私にも、ヴァノ聖国から来た他の神官さんたちにも口を挟む隙がなかったのだ。
ただ呆然と二人のやりとりを眺めつつ、ふと目が合った神官さんと『お互い大変ですね……』みたいなアイコンタクトを取ってしまった。
ははは。
今日も帝国は平和だな……! 平和であってくれよ!!
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