第132話
はあ。
もう何度目かわからないため息が漏れる。
「ぴゅぅい?」
「なんでもないよ、ソレイユ」
ソレイユも、デリアも、私の様子に心配そうな雰囲気を出しているが私は気にしないことにした。
だってため息だって出るでしょうよ、私自身の気持ちが定まらないんだもん。
(好意を向けられることは嬉しい。だけど結局私は相手の顔色を窺っている)
前世でも先生に指摘されたことだ。
嫌われないように、疎まれないように、向けられた好意を純粋に受け取りきれず、一線を引いているって言われたことがある。
その時は言われてドキッとした。
親の顔色を見て、殴られないように、怒鳴られないように……機嫌を損ねてご飯が食べられないことがないように。
そうやっていたことが、友人知人に対してまで及んでいたことは、自覚していた。
この人たちは違うんだっていくら思おうとしても身についた習慣というのは簡単にはなくならないもので、私は自分の将来を自分で掴むと言いながらどこかで自分は『選ばれない』と思っている節があったのだ。
そしてそれは今もまだなお、私の中に根深く残っている。
(私が誰かを選んだとして、選ばれなかった人に嫌われるかもしれない)
選んだ相手と幸せになれば良いんだから、嫌われたとしてもそれは残念だった程度に思えば良いんだって頭ではわかっているのだ。
でも心が、怖いって訴えている。
(彼らは違う。そもそも嫌うとかそんなところまで感情が成長したわけじゃなくて、ただ義務の関係じゃなく好意を育て始めたってだけなのに)
私は自分が、悪者になりたくない。
そんなズルイ自分が、嫌いだ。
なのにその感情が私の行動の邪魔をする。
(こんなんじゃだめだってわかってるのに……)
はあ、とまたため息を吐いたところで乱暴なノックの音が聞こえて、返事も待たずにヴェル兄様が入ってきた。
普段は紳士でむしろ私に対して気を遣ってばかりの兄様だけに、ギョッとする。
「に、兄様?」
「大変だヴィルジニア!」
「えっ?」
「ヴァノ聖国の司教団がお前を聖女に認定すると言ってきた……!!」
「は、はあ!?」
「やつらは身柄の引き渡し要請をしてきた。さすがにこの城の中で問題を起こすとは思えんが、一度は面会をせねばならない」
聖女って、え、あの? お伽噺とか聖典の中にだけ出てくるあれ?
神の地上の代理人、慈母の心を持ち人々を癒やし導くとかいうあれ?
この大陸の中央に存在する山の中腹に築かれた巨大な教会と、その周辺にできた村や町を含めて多くの神々の神殿を内包しつつ創世の神を中心に据えているのがヴァノ聖国だ。
人口はあまり多くなくて特産品らしいものもなく……って違う教科書の丸暗記したことを思い出している場合ではなかった!!
「な、な、なんで……!?」
「わからん。とにかくお前を連れてくるようにとのことだが……大丈夫だヴィルジニア、俺たちは決してお前を手放すようなことはないからな!」
ぎゅっと力強く抱きしめられて、普段なら照れるような状況なのに。
折角家族を得て、幸せに暮らしていたのに?
私がグズグズしていたせいで、変なことが起きたのかな?
そう思うと、足元がぐらぐらと揺れるような気がして。
私はヴェル兄様の服を、力なく掴むしかできないのだった。
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