第131話

 改めて遅まきながら自分にも思春期らしい時期が来たと悟った十歳ですこんにちは!

 ってちがーう! 私はちゃんと思春期らしい時期を前世だけど過ごしたから初恋だって知っているしアオハルしている友だちの横でその甘酸っぱさをお裾分けだってしてもらってるんだから知ってんだよオ!!


 ……ただまあ、それが自分の身にふりかかるとこんなにも身悶えするのかと。


「で、きみら何してるの」


「協定を結んでいる」


「きゅっぴ」


 人がこんなにも思い悩んでいるというのに、何故だか今日のお茶相手であるユベールと、そして可愛いソレイユがさっきからこっちをほったらかしで見つめ合って時々何か言い合っていがみ合って仲直りしてを繰り返しているのだ。


 そろそろ拗ねるぞ? 私が。


 その挙げ句に協定ってなんだ。

 お前らは国の代表者か?


「それじゃあ頼むぞ、ソレイユ」


「ぴっ」


 何事かお互いに通じているっていうのずるくない?

 わけがわかんないままにソレイユは満足したのか、私にすりすりと頬ずりしてからこの場を飛び去る。


 思わずそれを見送って、私はユベールに視線を戻した。


「……なにしたの」


「言葉が通じるわけじゃないが、竜種は魔力を通じて意思疎通を取ることが可能な種族だと魔国で習ったし、実践したことがあるんだ」


「そう、なんだ」


 ユベールはとても優秀だって話を父様から聞いた。

 なんだったら、かつて私の婚約者にどうだって薦められたクラリス様の息子さんよりもずっと。


 だからこそ、魔国の王太子であるユベールのお父さんは国に貢献する人になってほしいと思っていたらしく、今回の婚約者候補になるというユベールの意見に反対したって話をつい最近、噂で耳にした。

 それを振り切ってまでここに来たのは偏に私への愛情だとか、情熱的で素敵だとか、そんな感じの……なんていうの? 肯定的な? 応援されている感じの? 噂だっただけにいたたまれなかったんだけどね!!


「あいつの前の前任者が俺だということを説明した」


「なに説明してんの!?」


 一国の王子様がペットでした宣言を次のペットにしてるってどんな構図よ!

 なんか字面にするとやばいやつじゃん……!!

 いや、正しいんだけどね!? 合ってるけどね!?


「俺はペットに戻るつもりはないけど、ヴィルジニアの一番近くにいるのはアイツだろう? 俺を含めた婚約者候補たちと比べると」


「そりゃ、うん? まあ、そうなるのかなあ」


 そもそもペットと比べるのが可笑しいと思うんだけど、私が間違っているのか?

 ユベールがすっごく真面目な顔をしてそんなこと言うから自信がなくなりそうだよ……!!


「それで、協定って何したの」


「秘密。とりあえず味方につけただけ。邪魔されたくないし」


「ソレイユはいい子だよ?」


「……味方は多いに越したことはないだろ?」


 なんだろう、この会話の噛み合っているけど噛み合っていない感。

 ユベールはにっこり笑って……うん、綺麗なお顔だわあ。


 シアニル兄様のような美形とはまた違うんだけど、ユベールの顔が整っているのは事実だからね……ってどの婚約者候補も顔が調ってるんだよなあ!

 私が『兄様たちに負けないような人』っていうようなことを言ったが為に集められたんだと思うと本当にもうね、うちの家族は私に甘過ぎだと思うのよ……。


 今更なんだけども!!


「ヴィルジニアを焦らせるつもりはないんだ」


「……ユベール?」


「だから、俺は周りに認めてもらうことから始めることにしたんだ」


 なんだろう。

 ユベール、腹黒くなっちゃったなあ。


 でもなんとなく言いたいことはわかったよ……外堀を埋めるってヤツだこれ!


(恋愛方向なんだろうとは思う。みんな私とそういう・・・・関係になることを念頭に、私を口説く方向になったことはわかる)


 後は私が覚悟を決めるだけ……ってこと!?

 愕然とする私を前に、ユベールはにっこり笑った。


「ヴィルジニアとの時間は純粋に楽しむことにしてる。……なあ、会えなかった間のことをお互い、いっぱい話そうな」


「う、うん……」


 あの純粋だったシエルはいったいどこに行っちゃったんでしょうか、神様!!

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