第130話

「そういえば姫、知っているか」


「……何がでしょう」


「獣人族はその身に獣の能力を宿すと言われていることは周知の事実だが、世間では〝運命のツガイ〟と呼ばれる関係があるのではと囁かれているんだ」


 フォルティス様にそう言われて私は『そういえば前世でもそういうジャンルあったなあ』などと思ってしまった。

 うんうん、ロマンティックなやつだよねえ!!


「まあ有り体に言うと『繁殖に最も適した相手』を本能が察するということなんだけど」


 ものすごくロマンスの欠片もない説明をされて、私は苦笑しつつもなんでそんなことを言ってくるんだ……? とフォルティスさまを見つめてしまった。


 ここのところ他の婚約者候補……つまりサルトス様とピエタス様から甘い言葉(?)と態度で接されていたものだから、ちょっとばかりフォルティス様もそうなんじゃないかなーって勝手に思っていたのだ。

 やだ恥ずかしい!!


(自分が可愛いって鏡の前で言わされるのも含めだんだん自意識過剰なんじゃないかって思ってきたわ……)


 いけないいけない、道を踏み外すところだった!

 いや私が可愛いってのは事実だし、婚約者候補が甘い言動をしてくれる分にはオッケーだと思うんだけどね。

 何事も適量って言うじゃない?


「けどまあ獣で言えばツガイってのは確かに繁殖のための相手だ。一生を同じ相手と番うことがある種の方が少ない。それを俺たち獣人族に当てはめるのは、やはり無理がある」


「……?」


「けど、そういう……運命とかそういう言葉が出るのは、それだけ俺たちが互いに相性のいい相手を本能で見分ける能力があって、それを後付けで呼んでいるのだと俺は思う」


「そう、ですね……?」


 うん? なんだろう、繁殖とかなんだかそういう話題を真っ昼間から十五歳の思春期少年に説かれる十歳、とても不思議。

 ここは照れるべきなのか、真面目に学術的な話として真剣な顔で聞くべきなのか、何が正解なのだろう!?


「それで、だ。俺たち獣人族はそれを当たり前・・・・だと思っているし、そうなったら相手もわかっている・・・・・・と思っている。なぜならそういうものだから」


「……? 獣人族同士なら、そう、ですね」


「ああ。だが姫と俺は違うだろう」


 そう言うや否やフォルティス様は勢いよく立ち上がって私の前に歩み出ると、跪いた。

 そして呆気にとられる私の手を取って、甲に軽く口づける。


「姫からは良い香りがする。それに、獣人族は庇護欲の出る相手が好ましく思えるんだ。……つまり、あー、何が言いたいかっていうとだな」


 ピコピコと忙しなくうさ耳が動いている。

 いつも凜として、どちらかというと仏頂面という言葉の方が似合うフォルティス様が耳まで赤くなっているのを見て私もつられて赤くなるのを感じた。


(あれっ、今)


 本能的に好ましい・・・・相手からいい匂いというものを感じるという獣人族であるフォルティス様が、私から良い香りがするって、それって。

 それってつまり。


「……姫がそんな顔をしてくれるなら、もっと早くから告げていれば良かったな。種族が違う相手とは互いに言葉を尽くすべきだと知っていたのに、二の足を踏んでいたのが今となっては悔やまれる」


「フォ、フォルティス様」


「あんまり俺の顔を見てくれるな姫。きっと今は情けない顔をしていると自覚はしている」


「な、なら私の顔も見ないでください……!」


 ふはっと笑うフォルティス様に、私は胸がドキドキするのを感じる。

 なんだこれ、まるで少女漫画の中みたいなやりとりだなあ……なんて思う自分が結構残念な感じであったけども。


(やばい、これがアオハルってやつかあ……!!)

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