第112話

 さて、お妃様たちが私に構うようになったことでどうやら他のお妃様たちまで『第七皇女』という存在に興味を引かれたようだ。

 彼女たちは彼女たちなりのルールがあって、私に接触しないようにしていたのだろうけれど……最近、遠巻きに見られているなとは思う。


(うっ、視線が怖い……)


 特に何かされるってわけじゃないんだけど、こう、観察されてる……的な……?

 ソレイユがその度に威嚇っぽいことしてるけど私の肩に乗っかって両手を挙げて『がぉー』ってしているのが可愛くてたまらない。


 うんうん、ありがとうねソレイユ……!


 そして候補者たちとの関係は一歩進んだような気もする。

 彼らは『皇女の婚約者候補』ではなく、『ヴィルジニア=アリアノットの婚約者候補』として私との関係を考えてくれているというのがなんとなく会話の端々に見えるようになった。


(なんか照れくさいよね)


 他の候補者たちとも縁を深めることを前提に四人で集まってお茶をすることもある。

 お茶菓子は持ち寄りでね!


 結構みんなの性格がでるんだよ、これが。


 サルトス様はナッツ類を使ったクッキーでしょ。

 ピエタス様はふんわりしたケーキ類。

 フォルティス様はフルーツ系が多いかな。


 私? 私はその時その時で部屋に置いてあるお菓子を適当に。

 父様や兄様が毎回持って来てくれるから余っちゃってるんだよね……食べ過ぎは良くないってデリアにも言われるし!


 今日はターキッシュ・デライトみたいなやつがあったからそれにした。


「ところで、アリアノット様に聞きたいことがあるんだけど」


「なあに?」


 サルトス様がお茶を淹れながらニコッと笑った。

 相変わらず美しい。


「ユベール王子ってどんな人?」


「えっ……」


 直球で質問された。

 いや、みんな知ってるんじゃないの?


 私が知っている情報なんてもう五年も前のこと。

 今の彼がどうかなんていやまあ文通しているからなんとなくわかるっちゃわかるけども。


「ええと……年齢は今年で十五歳、フォルティス様と同い年ですね」


「……そうか」


 フォルティス様がなんだか悔しそうだ。

 なんでだよ。ただ年齢が一緒ってだけでしょ!?


「最後にお会いしたのは五年前なので、今のお姿はわかりませんが……銀の御髪がとても綺麗な方ですよ」


「ぎ、銀色がお好き、なんですか……?」


 ピエタス様が自分の髪の毛掴んでぐぬぬってしてるけど別に髪色で好みはないかな!

 あーんと大口を開けて催促してくるソレイユの口にクッキーを一枚押し込んで、私もフォークでイチゴを刺した。


「文通を、しているとアル=ニア殿下から聞いた」


「はい。ユベール様は元々事情があって魔国から逃げて来られた母君が帝国で出産したこともあり、あちらにお戻りの際は知らない人ばかりの土地に行くわけですから……せめて私だけでも味方だとお伝えしたくて」


 丁寧に言ってるけど寂しいから文通したんだよね!

 割とユベールが筆まめだったからさ。

 手紙って来ると『ちゃんと返さなきゃ!』って思うし、返事待ってるって書かれてるとやっぱり嬉しくなるもんじゃない?


 魔法の通信とかも楽しいけど、それが使えない距離だから仕方ない。


(でも今度は直接会って話せるんだもんね!)


 前と同じ距離だとはさすがに思ってないし、もう変身してもらったからって気軽に抱きついちゃいけないことくらいはわかってるよ!!


(でもモフモフしたいなあ)


 ソレイユのモフモフとはまた違うモフモフで、アル兄様のともまた違う感触なのだよ。

 どのモフモフも違ってみんないい。モフモフは正義。


 コッソリ頼んだらユベールも許してくれないかな?

 というかユベールはいつこちらに到着するんだろう。


(会いたいな)


 そんなことを思っていたら三人と一匹の視線が痛い痛い。

 えっ、確かに茶会の時にぼーっとしちゃったのはよくないけどソレイユまで?


 ペットの座を巡った争いが今始まる……!?

 いやユベールはもう一人の王子様だからね! ペット枠はソレイユのものだよ!!


「……姫君はその王子と仲が良いのだな」


「え? ええと……まあ数ヶ月共に過ごしたというか、仲良くしてもらいましたから」


「なるほど」


 ちらりとフォルティス様が視線を逸らした。厳しい視線だ。

 思わずそれに肩を揺らしてしまったけど、私もその方向へ視線を向けた。


「……あ……」


 そこには使節団と思わしき一団がいて、こちらに一人の少年が歩いてくるのが見える。


 輝くような銀の髪。瑠璃色の瞳。

 涼やかな容貌も、毅然としたその姿も私の知らない人なのに。


(ユベール)

 

 すぐにわかった。

 あの日、あの時私を励まして別れたユベールと重なったから。


「遅れてすまない。会いたかったよ――俺のニア」


「!?!?!?!」


 こんないきなり甘ったるい声で愛称を呼んでくる人だったっけな!?



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これにて第二部、一旦幕引きです。

第三部での彼らの活躍、お待ちくださいませ!(一週間ほど連載お休みののち再開します)

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