第十二章 花は一本、蜜蜂四匹

第113話

「俺のニア」


 そうにこりと微笑む絶世の美男子に成長したノエルことユベール。

 彼がかつて奴隷の子だったなんて誰も想像できないくらい、王子様だ。


(くるっぽーとか鳴いてたくせに!!)


 すっと私の手をとって貴婦人に対するように手の甲にキスを落とすところも、ずっと高くなった背も、綺麗なんだけどどこか男らしいっていうか……とにかく、知らない人みたいだ。

 でもキラキラ光る銀髪とあの空の色の青を湛えた目が『彼だ』って私に知らしめる。


 だけどよ!?


(俺のニアとか、そんなこというタイプだっけ!?)


 そもそも文通友達で私の中のイメージではいわゆる幼馴染なんだけど!?


 ユベールだって会いたいって確かに手紙の中で言ってくれてたけど『帝国の料理が懐かしい』とか『あの酪農地帯でそろそろお祭りの時期だな』とかそんなことばっかりだったじゃない!

 私に婚約者候補ができたって手紙に書いた時も『お淑やかにしろよ』ってからかってきたくせに……。


(あ、もしかして)


 周囲には魔国の使節団。

 そして私の背後には、候補者たちとその更に後ろに侍女や侍従たちの姿。


(これはもしや、すでに外交の一端……!!)


 どこの国が私という皇女を手に入れて利権を得るかの争いが!?

 いやユベール本人の気持ちはまだわからないけど、私の結婚ってそういうことだからね!


 わかっちゃいるし、後から参戦のユベールは他の候補者たちに引けを取らないってところを見せたいわけか。

 自国のメンツにも、他国のメンツにも。


(はえ~……ユベールちゃんと王族してるんだなあ)


 思わず感心しちゃった!


 いやしかしそれならそうと事前に話しておいてくれないとびっくりしすぎると人間って言葉を失うんだよ知ってるだろくるっぽー!


「くるっぽーとか言ってたくせに」


 思わず苦し紛れに、他の人に聞こえないよう小さく昔のことを言ってやる。

 きっと嫌がるだろうと思ったけどユベールは少しだけ目を丸くしてから嬉しそうに笑った。


「はは、懐かしいな」


 それがまた綺麗な笑顔だったもんだから、負けたって思わずにいられない。

 どうしよう、父様兄様に負けない美形がまた一人増えました。


「ニア。ようやくここまでこれたんだ。手紙じゃ言えなかったけど……後で時間をくれるか?」


「……ユベール?」


「先に皇帝陛下にご挨拶をしないわけにはいかないんだ。一緒に……と言いたいところだけれど、彼らにも申し訳が立たない」


「あ……」


 困ったように微笑むのは、どういう気持ち?

 ユベールのことが、さっぱりわからない。


 だけど彼の言っていることはもっともで、私は他の候補者たちと過ごしていたのだから彼らを放っておいていいわじゃない。


「改めて後ほど挨拶に伺わせていただこう、他の候補者殿。魔国が第一王子、ユベールだ。これからは同じ立場として親しくしてくれたら嬉しい」


 にこりと微笑むユベール、余裕綽々といった雰囲気で他の候補者たちに挨拶をして優雅にその場を去って行く。


 でもね、いくら私がそういうことに不慣れだからってわからないはずがない。

 ユベールのあれは、どちらかといえば宣戦布告だった……!!


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第三部開始に伴い更新再開となりますが、

諸事情により週に三回だった更新を毎週月曜日の18時とさせていただきます。

お楽しみに!

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