第97話

『俺は目と耳がすごくいいんです。覚えておいてください、姫様』


 そう言ったきり、その後は沈黙か相槌を打つだけになってしまったフォルティス様とのお茶会。

 まあ決して悪い空気ではなかったし、楽しくお茶会をしたと言えばそうなんだけども……私にはさっぱり意味がわからないままなのだ。


「ってことなんだけど、どう思いますか二人とも」


「……それを僕らに聞くんだ」


「き、聞いちゃうところが、アリアノット姫様らしいですよ」


 そう、同じく婚約者候補のサルトス様とピエタス様なら何かわかるかなって!

 兄様たちは最近ご自身の婚約者とのお時間と公務でお忙しいからね、そこは妹の方が気を使ってあげないとあの人たちすーぐ婚約者ほっぽって私を優先しちゃうから……。


 そのことにちょっとこう、やっぱり嬉しいんだけど。

 婚約者の人たちに悪いじゃない?

 まだ婚約者さんたちとは交流できてないんだけどさ……だからこそ、ブラコン拗らせた意地悪義妹枠なんてオチになりたくないから私は徹底的に気を使いたいわけ!!


「アリアノット様、僕らはカレン妃について詳しくないのだけれど」


「た、多分、フォルティス様はアリアノット姫様のみ、見た目のお話を語ったのでないんじゃ、ないでしょうか……」


「内面……?」


 私が知っているカレン様の情報は、猫の獣人でスペルビア王の娘、気が弱くて母国にいた頃から引きこもりがちだったってのは聞いてる。


(……一度、会いに行ってみるかなあ)


 フォルティス様を紹介してくださったあの茶会以来、カレン様の姿を見ていないんだよなあ。

 私が会いに行ったらまた具合が悪くなったりなんかしないだろうか。


 本当ならアル兄様と一緒の方がいいんだろうけど、アル兄様を生んでから引きこもったって経緯もあるからそこに頼るわけにはいかないし……。

 カトリーナ様と違って父様連れて行けばなんとかなるってわけでもないしなあ。


「多分、フォルティス様も思い込みではなくご自身の目でアリアノット様のことを見定めようとしているのではありませんか」


「だ、だから、目も耳も悪くないと、い、言ったんじゃないでしょうか……」


「そう、なんですかね……」


 わかんないなあ。私謎解きとか苦手なんだよね。

 でも確かにフォルティス様は私を騙したりするタイプには思えないし、目の前の二人の言っていることもわかる気がする。


「……次のフォルティス様との茶会で、聞いてみたらいいんじゃないでしょうか?」


「ひ、姫様がそれでも納得できないのであれば、あ、兄君たちにご相談してみると、い、いいと思います」


「ありがとうございます、二人とも」


 うーん、年頃の男の子の考えることって難しいな!

 とりあえずお礼を言ってみたものの、二人はなんとなくわかるけど決定的な答えを教えてくれる気はないってことだけはわかった。

 雰囲気的に察したよ、そういうことだけはわかるんだ。


(……鍵はやっぱりカレン様なのかな)


 テトも猫の獣人族だけど、彼女とはまったく違うタイプのカレン様。

 初めて会った時もほぼ目を合わせず早口に、ボソボソと……とにかくスペルビアの王に言われたからっていう雰囲気バッシバシだったからね。


 とにかくそうしなくちゃ、それがフォルティス様と私のためになるからってことを言っていたような気もしなくもないんだけど実は聞き取れていなかったなんて今更言えない。


(あっ待って、もしかしたら隣に座っていたフォルティス様なら聞き取れていたんじゃないの?)


 だって耳がいいって言ってたもんね!    

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