第96話

「……俺はウサギですが」


「そうですよね、お耳はとても可愛らしいです。でもフォルティス様は背も高くていらっしゃるし、キリッとしていてその騎士服もとてもお似合いです」


「……そ、そうですか」


「それにウサギって脚力がすごいんですってね。獣人族は宿す獣性によって特徴がことなると聞きますが、ということは……フォルティス様は蹴りがきっと強烈なんでしょうねえ」


「蹴り……」


「あっ、すみません! は、はしたなかったですね……」


 いやあ、前世の格ゲーを思い出してウサギの脚力があればリアルであの高いところからの跳び蹴りとか可能なんじゃ……なんてロマン溢れる妄想をだね!

 さすがに一国の皇女が『蹴り』とか普通は言わなかったですねごめんなさい!!


 後ろに控えているデリアから漏れ出る覇気がおそろしい。

 ごめんってば!!


(ああ……また礼儀作法の授業増やされそうな気がする……)


 どうにもデリアの中で私はお転婆さん扱いなんだよね。

 まあ確かにやれ騎士隊の訓練場だ、魔道具の実験場だ、魔法の研究棟だと足を運んでは治癒魔法の鍛錬に励んできましたので否定はできない。


 シズエ先生にも若干呆れられたけど、最終的に『元気でよろしい』って褒められ……いや、これ褒められてないな。諦められたのか?


「なるほど、蹴り……」


「えっと、フォルティス様?」


 しかしフォルティス様はまた違うようだ。

 何か私の言葉に感じるところがあったらしい。


 顎に手をあてて考え込んでいる。

 そんな姿もさまになるってんだからすごいなあ、本当に十五歳なんだよね?


「……失礼ながら俺は、姫君はカレン様と同じような人種と思っておりました」


「え?」


「守られる立場で、強い牙を持たない。あの方と違って姫君は帝国の姫だからこそ〝強さ〟を求められていないから自由闊達なだけで、本質は同じなのだと」


 カレン様と? 私が? 一緒?


 フォルティス様の言葉に理解が追いつかず、頭の中を疑問符が埋め尽くす。

 カレン様は私もフォルティス様を紹介していただく茶会の席で数回お会いしたけれど、なんというか……庇護欲のそそられる女性っていう雰囲気で、今にも泣き出しそうなお顔をしている記憶しかない。


(え? あの儚げ美人と私のどこに共通点あるの?)


 さっぱりわからん!

 勿論十歳の子供と、子持ち美女での共通点なんて見た目からはまるっきりないのも確かなんだけど、中身もかなり違うと思うよ!?


 そもそも私、泣くことは確かにあるけど基本的にはパル兄様も認める負けず嫌いだし。

 あっ、読書が好きだからって引きこもり扱いしてカルカラ兄様が心配していたから、そういう部分?


 でもカレン様の息子である、アル兄様は私について特にそんなこと……。


「あの、フォルティス様。失礼ですがフォルティス様って実は目がお悪いのでは……?」


「は?」


「私とあの美しく儚げなカレン様が同じように見えているならば、一度目の検査をした方がよろしいかと……!」


 いや、普通なら美人と似ているって言われたり守りたくなるような子って言われたら喜ぶべきなんだろうけどね?

 あまりにもね? あまりにも共通点がなさすぎてね?


 逆にフォルティス様の目が悪いんじゃないかって結論に達したんですよ!!


 なのに、心配する私をよそにフォルティス様は目を瞬かせたかと思うと――笑った。

 ふっと目を和らげて、微笑む程度だったんだけど。


「……俺は目と耳がすごくいいんです。覚えておいてください、姫君」

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