第95話
「……アル=ニア殿下は、姫君の前で仮面をお取りになるのですか」
「え? ええ、勿論ですわ。私たちは仲の良い兄妹ですもの」
「恐ろしくはないのですか」
「恐ろしい……ですか」
うーん、何度聞いても私には理解ができないんだよなあ。
でもそんな私の感性がみんなには理解できないんだと思うから、おあいこだとは思う。
「変わっているとはよく言われるのですが、アル兄様のお顔が私は好きなんです。とても可愛らしくて!」
「か、可愛らしい?」
あ、フォルティス様もびっくりしてしまったようだ。
耳がぴこっと動くところが可愛いなあ。
「……アル=ニア殿下には牙もありますが」
「ありますね。結構鋭いんですよ。この間大きな鶏肉を骨ごと噛み砕いてしまって、大変だったんですから」
「顔が獣そのものですが」
「生え替わりの時期のブラッシングのお手伝いをさせてもらっているんですけど、それが大変ですよねえ」
「……冗談ではなく、恐ろしくないのですね」
「ええ、とっても可愛らしくて私は大好きです!」
だって柴犬だよ? シバだよ?
めっちゃ可愛いじゃん。可愛いに尽きるじゃん。
でもまあ、その感覚は私だけなんだよなあ、残念ながら!
フォルティス様の表情はあまり変わらないけれど、その目には困惑が見て取れた。
この人は無表情とか寡黙とか、そういうんじゃなくて……多分、そうやって自分を守ってきた人なのだと私は思う。
アル兄様から聞いた話だと、第五妃のカレン様は猫の獣人。
獅子の群れの中に子猫というのは、きっとプレッシャーだったのだと思う。
『僕もね、小型とはいえせっかくの肉食獣種、しかも先祖返り……なのに何故戦士の道を歩まないのかってスペルビアの王でもある祖父に叱り飛ばされたからねえ。あの国に生まれ育ったフォルティス殿は、苦労したんじゃないかな』
聞けばカレン様も狩りの一つもできないなら、大人しく守られていろって叱り飛ばされて育ったようだ。
そのせいで萎縮して引きこもる性格になったそうなんだけど……兄様に言わせると、先祖返りを生んでしまったことで余計に『自分が悪いから』と負い目を感じてそうなってしまったんだとか。
だから今回も甥であるフォルティス様がスペルビア王家としては珍しい草食獣種ってことでスペルビアの戦士としては難しくとも、王族として相応しい立場を得られるってことで私の婚約者候補としてしっかり推薦しろって言われているらしい。
(けど、それがプレッシャーになって結局寝込んでちゃあれよねえ)
カレン様にはそのうち胃薬か何かを贈った方がいいのかもしれない。
それはそれで今度は『心配をかけてしまった』とか自責の念に駆られるんだろうか?
厄介極まりないな!
でもそれをフォルティス様はどう思っているんだろう。
スペルビアの獣人たちは、戦士として戦えることを誇りに思うと言う。
特に王家は大型獣種が多いからこそ、人々を守る盾であり矛であると明言している。
そんな中で『草食種だから』と戦士として認めてもらえていないような扱いで、宗主国の皇女の婚約者候補として送り出されたのだとしたら。
「……姫君から見れば、我ら獣種は可愛いもの、なのでしょうか?」
「え? ええと……それはどうでしょう」
うーん。
可愛い……可愛いと問われれば確かにあの耳とか、尻尾とかは可愛いよね。
グノーシスの厳ついお顔の上にクマさんのお耳だし。
でもグノーシスは可愛いよりかっこいいだと思うし。
テトは……可愛いだなあ、可愛いよりも美人だけど。
「そうですねえ。難しいところですが……あ、フォルティス様は私にとってかっこいい部類ですよ!」
「えっ」
「えっ」
なんでそこでものすごく驚くのかなあ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます