第75話

 まあ私のことはともかく、サルトス様は植物学に興味がある、と。

 なんでも精霊が見えなくて落ち込むことは勿論あったんだそうだ。


 周囲に可哀想だと言われるたびに、自分が出来損ないな気持ちになって惨めだったと。

 周囲が優しければ優しいほどにその劣等感は強くなり、だからといって誰かに八つ当たりするのは違うって思ったんですって!


(……十四歳なのに、私よりずっと大人だあ)


 前世の私が十四歳だった頃は絶賛反抗期というか『あのくそったれな家族からどうやって逃げ果せるか』しか頭になかったよ……?

 まあ周囲がサルトス様に対して同情からでも優しかったというのは、救いだなあと思った。


(でも可哀想、可哀想って言われ続けるのが惨めなのは、わかるなあ……)


 そうなのだ。

 始めのうちは可哀想だと同情してくれる人がいて、それが嬉しかった。

 でも言われ続けると今度は自分が普通ではない、可哀想な境遇にいる子供だと自覚する。

 自覚すると今度は周りが羨ましいし妬ましいし、どうして自分は……って負の感情が湧くのだ。


 私の場合はその鬱憤全てが両親に向かっていたけど、それは私を虐げていたからだ。

 でももし私の両親がとても・・・優しくて、たとえば『姉と違って不器量で可哀想』『頭が悪くて可哀想』とか自分ではどうしようもないことでずっと同情して優しくしてくれていたら私はどうしていただろうか?

 少なくとも優しくしてくれる両親に、私は文句を言えただろうか。

 そんなことないよって、言葉を呑み込んでいたんじゃないかなって思う。想像だけどね。


「僕には精霊が見えません。ですが、自然と触れあっている時に彼らが傍にいてくれるような気がするんです」


「……」


「アルボーでは花を育てることもあまり良い顔はされませんでしたが、それでも何もしないよりは自然と触れあっていた方が良いだろうということで大目に見てもらっていました」


「まあ!」


 花を育てるだけで嫌な顔をするって、それじゃあアルボーの人々は帝国や、その他の国にある庭園のように人の手が加えられたものは忌み嫌うものなのだろうか?

 それってカーシャ様やサルトス様の目にはどう映っているのだろうか。


 私が目を瞬かせていると、サルトス様はそれに気づいて笑った。


「アルボーの人々は良くも悪くも、自分たちのこと以外興味があまりないんです。精霊と自然と、共にいられればそれで……カーシャ様がこちらに嫁いで来たのも、彼女ならば人の世界に影響を受けすぎることなく調和を保てるだろうと考えられたからだそうで」


「第三妃様が?」


「はい。あの方はエルフ族でも数少ない、大精霊と言葉を交わせる方ですから。誰よりもエルフらしいエルフの女性です」


 どこまでも誇らしげにそう言うサルトス様の目に、他の感情は見られない。

 純粋に、親戚の女性がすごいのだと誇っているのが伝わった。


 だけど私としてはとても不思議だ。

 理解できない。まあしてもらいたいとか、する必要もないのだろうと思う。

 エルフ族は独自の価値観がある、それがわかっていて、そのことを理解して『そういうもの』として受け止めることがきっと大事なんだ。


 そして、きっとサルトス様はそんな中にあってエルフの価値観で生きているけれど、自覚がある〝異端児〟なんだと思う。

 きっかけは精霊が見えないことだろうけど、エルフ族にとって推奨はしない自然への介入……っていうと大袈裟だけど、とにかく植物学への興味。

 知るだけに留まらず、品種改良だとかそういうものにも触れていくのがもしれない。

 

(まあ、あくまで可能性だけど)


 でもそれらの根底は『精霊がそこにいる』なんだよなあ。

 なんだろう、ものすっごく単純で、複雑で、矛盾してて頭がこんがらがってきたよ!!

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