第74話
「サルトス様のご家族は、第三妃様の親戚でしたね。どのような方々なのですか?」
「はい。母がカーシャ様と従姉妹の関係でして……とはいえカーシャ様は僕が生まれるよりも前に嫁がれておいででしたので、こちらに来て初めてお会いすることが叶いました」
「そうなんですね……サルトス様のご両親はどんな方なのですか?」
「両親は穏やかな人たちです。エルフとして特に風の精霊に親和性があるようで、〒関係の職に二人とも就いています」
「まあ」
風の精霊と親和性があるから郵便って言われても私はピンと来ないんですけど!?
いや、エルフ族の暮らしそのものがよくわかってないっていうか……教科書とシズエ先生からの話では〝自然と共に暮らし、精霊と心を交わしながらなんちゃらって言ってたっけ?
いやなんか自然信仰に近い感じなのはわかったんだけど、理解がおっつかない感じだったのよね……。
まあ要するに魔法が身近な魔国と同じで自然豊かな土地に宿る精霊たちと共生しているのがエルフ族ってことで、中には精霊が見えない体質(私たちで言えば魔力がない人)もいるって認識で合っているのだろうと思う。
レアケースってだけで
(でも第三妃のカーシャ様って確か……あれ? 別にエルフ族の姫とかそういうんじゃないんだっけ?)
エルフ族は長老たちを長として仮初めの『王』と呼んでいるんだっけ。
特殊なんだよね、確かいろいろと……。
それほど交友もないし今はまだそこまで勉強しなくていいって言われたから触りしか本当に学んでなくて、まさか婚約者候補にエルフ族の人が選ばれるとは……。
ああいや、シズエ先生は『今はまだ』って言い方したんだからきっと後でもっと勉強するんだろうけど。
今は国内のことを中心にしっかり学びなさいよ! ってことでしょうね。
トホホ、学ぶことが多すぎてしんどい……。
「ご兄弟はいらっしゃるんですか?」
「ええ。兄と弟が。二人とも両親と同じで風の精霊と言葉を交わせるんですよ」
ふんわりと微笑むその姿はどこか誇らしげだ。
だが私は首を傾げる。
オルクス兄様がカーシャ様から話を聞いたところによれば、エルフ族にとって精霊が見えない……サルトス様の言葉を借りるなら親和性のない人は『可哀想』な立場のはずだ。
それなのに、目の前にいるサルトス様からは悲壮感のようなものはまるで感じない。
(どうして?)
そんな私の疑問は顔に出てしまっていたのか、彼はクスクス笑って私の前にマカロンを差し出した。
「僕は精霊が見えませんし、声も聞こえません。エルフ族の価値観でいけば哀れなのでしょうが、こうして外の世界に出られたのですから悪いことではないように思います」
「外の世界に……」
「はい。実は僕、花や草を育てるのが好きで……その研究をしたいと思っているんです。でも僕の母国であるアルボーでは草花に手を加えることを良しとしません。我々は自然の恵みを享受する身であり、滅びるのも栄えるのも自然に任せることこそが正しい精霊との在り方なのだと……」
「それが、エルフの価値観というやつなのですね」
「そうです」
決して他国の在り方を否定するわけではなく、彼らは彼らの中の信念や価値観を元に
でもそれはそこに馴染めない思想を持つ人にとっては、少しばかり窮屈なのかもしれない。
今の、サルトス様の言葉のように。
「僕は精霊が見えません。でも草花に興味があって……おかしいことでしょうか?」
「いいえ、素敵だわ! この国に来てから何か育てられているのですか?」
「はい。花を育てているのですが……綺麗に咲いたら、アリアノット様にも是非見ていただきたいです」
「楽しみです! うわあ、なんの花だろう!!」
私は自分の手で育てられないから尊敬するよね。
だって水をあげすぎてもあげなすぎても枯れちゃうんだよ?
植物って繊細なんだから!
(鉢植えの紫陽花枯らしちゃったことあるもんなあ)
ほんと、植物育てられる人って尊敬するのよねー!
女子力が低いって?
豆苗ですら若干怪しかった私にそんなものを求めないでいただきたいね!
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