第73話
サルトス様はとても穏やかで、私の話を嫌な顔なんてせず笑顔でたくさん聞いてくれる。
でもそれは遠慮からなのか、全てを諦めているからなのか?
私の婿になれなかった場合の道もカーシャ様はお考えなのだろうけど、サルトス様本人の気持ちは見えない。
(……だけど、仲良くなってもいないうちにその本心を教えてくれなんて言えるはずがないものね)
さすがにそこまで私もお気楽な考えではないのだ!
まあ彼がどう思おうと〝帝国の皇女〟の婿候補に選ばれたという事実は変わらないし、正直私もまだ子供で彼はそれよりもう少しだけ大人に近いだけで、やっぱりオトナの庇護がないと生きていけない子供なのだ。
私は幸せな生活のために、彼らは生きていく場所を築くために。
そういう意味で私たちはお互いそれぞれ思惑があってこのお見合いモドキに臨んでいる……って考えるのが妥当よね?
正直、十歳の女の子見て『この子と結婚したい!』ってお約束の展開をするには私は地味だからな……いくら美少女に成長しているとしても、周りの美形率が高かったら霞むってもんでしょ。
いやあ、美形の兄たちがいて私としては鼻が高いけどね!!
(兄様たちの婚約者さんたちが大変そうではあるな)
うん。
頑張って。
ヴェルジエット兄様の婚約者さんとしかまだ挨拶をしていないけど、彼女も大変そうだったからなあ。
「そういえば先日、ピアスを開けられたとか。おめでとうございます」
「ありがとうございます!」
「……両の耳にそれぞれ違う色の石ですか?」
「はい」
帝国では魔力の問題で子供が育ちにくかった過去から、節目を大事にする風習が根強い。
とはいえさすがに一般市民となるとそこまでは……って感じなんだけど、まあ基本的に五歳刻みだ。
五歳まではなるべく外との関わりを持たず大切に育て、十歳まで生きたことを喜び耳に穴を開けこれからも健やかであるよう願って守り石の飾りを送る。
そして十五歳で大人の仲間入りをするのだ。
といっても十五歳である程度の社会的責任を持てってだけの話で、社会人になれって意味ではない。
市井では働く人も多いらしいけどね!
私も十歳になったので、ピアスを開けたのだ。
チクッとしたけど大丈夫! 泣かなかったよ!!
前世では開けたくても開けられなかったっていうか、おしゃれにお金を割く余裕がなかったっていうかね……イマドキ百均でもあるでしょって言われるかもしれないが、その百円があればもやしが複数袋買えるんだよ。
数日はオカズに困らないでしょ!?
(っていう悲しい記憶は封印するとして)
おしゃれを許される立場に生まれ変わった今の私の両耳を飾るのは、左右の色が違う石だ。
綺麗な薄い赤と金茶。
「これは兄のパル=メラとアル=ニアが贈ってくれたものなのです」
「兄君たちからの贈り物でしたか」
「はい! ご存じかと思いますが、私の母はすでに亡く……そのため、兄たちが守り石を贈ってくれたのです。どれも素敵なので、毎日違うものを身に着けております」
そうなのだ。
守り石というだけあって割とこの世界では女親が子供たちへの贈り物に優先権みたいなものがあるらしく、節目は女親が取り仕切るもの……みたいなところがある。
だが私のように母親を早くに亡くした者や、親を知らないなどの事情がある場合は家族、あるいは後見人が贈るものらしい。
私の場合は兄様たちからだった。
父様が贈らないなんて珍しいと思うでしょ?
あの人、鉱山で一番強い魔石を……とか言い出してさすがに兄様たちが揃って止めたらしいよ!
ありがとう兄様たち!!
まあそんなこんなで兄様たちからは兄様たちの目の色をしたピアスを贈ってもらい、父様からも金細工のピアスをいただいた。
父様からのは公式行事の際につけると決めている。
そのくらい繊細で美しいのだ!
もらった時はテンション上がってはしゃいじゃったよね。
淑女としては窘められたけど、家族からのプレゼントはなんでも嬉しいじゃない?
「……アリアノット様は本当にご家族と仲がよろしいのですね」
「はい!」
いやまあお妃様たちとは仲がいいとは言えなかったわ。
忘れてたわけじゃないけどさ!
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