第八章 エルフの価値観、私の価値観

第72話

※手違いで18時更新時に違う作品の最新話をアップしておりました。

 大変申し訳ございません('A`)



 さて、こう見えて私もいろいろと忙しい。

 十歳というと思春期に入って成長も著しく、私は唯一の皇女という立場もあるので素晴らしい淑女レディーであることが求められるのだ。


 要するに自国だけでなく諸外国の歴史から始まって外国語の習得、礼儀作法、刺繍、一応護身術、魔法、ダンス、乗馬、その他諸々。

 ありとあらゆる学問でトップを獲らないまでも貴族令嬢たちの前に出て『さすがは皇女様!』と言わしめる……なんてのはさすがに無理だが、皇女として恥ずかしくない振る舞いができないと困るのだ。

 

 正直、面倒くさいことこの上ない。

 でもそれは全部自分のためになることなので、頑張ります。


 まあその合間を縫ってようやく私は婚約者候補たちとの時間調整ができたと連絡をもらった。

 というのも、私があれこれ『したい』とお願いすれば大抵のことは叶うわけだけれど……ただ叶うと言っても私は我が儘で全部を押し通したいわけじゃない。

 その辺りをきちんとした上で私の意見を聞いてくれというスタンスを貫いているので、今の教育状況だとか兄様たちや父様との家族の時間、ソレイユとの時間だって大事にしたい。

 それらを加味した上でデリアがあれこれと動き回ってくれて調整をつけてくれるのだ!

 ありがとうデリア! 私の専属侍女さんは頼りになる!!


(……本来の侍女って、主人の身の回りの世話をすることであって秘書みたいな仕事をするんじゃないはずなのにね……なんかごめんね……)


 幸いデリアは私と仲良くしてくれているので嫌そうな雰囲気はないけど……お給料に反映してもらえるよう、それとなく父様に相談しておこう。

 いやだめだな、父様だと勝手に爆上げとかして逆にデリアが卒倒しちゃうな。

 ヴェルジエット兄様も多分似たような感じだし……。

 

 こういう時に頼りになるのはオルクス兄様かな!

 最近わかったけど、オルクス兄様もなんだかんだ私にかなり甘い。

 だからデリアのお給料が上がることは間違いないだろうけど、でもまだ冷静に判断してくれると思うから常識の範囲内で働きかけてくれるに違いない。

 ……多分。


 そうこうしている間に、サルトス様とのお約束の日がやってきた。

 これまでは週に一度と決まっていたお茶会だけれど、それに加えて会いたくなった場合はお互いに連絡を取って時間を作ると新しい約束事を増やした。


 ちなみに何故週に一度かというと、それはお妃様たちが自分の関係者である候補者を私に勧めたいがためにお茶会へのお誘いが過熱して、少々問題視されたからである。

 うーん、頼むよ大人たち!

 淑女としてのお手本であってほしいお妃様たちのそんな話を聞いていると、なかなかその道のりって険しいのでは……? と最近ちょっと怖く感じる時があるよね……。


「お待ちしておりました、アリアノット様」


「すみません、お待たせしてしまいましたか? サルトス様!」


「いいえ。お茶の準備をするこの時間を楽しんでおりました。アリアノット様のお好みとなっていれば良いのですが……」


 ふわりと笑う美少年。眼福。

 プラチナブロンドのストレートヘアをボブカットにした儚げな雰囲気の美少年、それがサルトス様だ。

 新緑のような鮮やかな緑の目がとても印象的なんだけど、いつだって柔らかな笑みを浮かべている方だ。


 サルトス様は精霊が見えない。

 それは第三妃であるカーシャ様の……エルフたちの価値観から見ると、可哀想なことだという。


 だけど、サルトス様からは悲壮感なんてまるで感じない。

 それどころかこの国でのびのびとしているような気もする。


「今日は美味しそうなクッキーを用意していただけたので、ミルクティーを準備してみたんです」


「わあ……!」


「どうぞ」


「ありがとう、サルトス様」


 にこっと微笑むサルトス様は大変美しゅうございます。

 エルフ族ってみんな線が細めで綺麗系の人たちって感じなんだけど、サルトス様は私が出会ったエルフ族の中でも特に儚げな雰囲気なんだよねえ。


 ……うん、この人が私の旦那様候補なのかあ……。

 ちょっとハイレベルすぎる美貌に、改めて自分の地味さを考えて大丈夫かと心配になるのだった。

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