第71話

 とはいえ考えたってしゃーない。

 無駄なポジティブ精神も持ち合わせている私は考えを切り替えた。


 そう、ちょうど呼んでいた恋愛小説にもあったのだ。

 そのヒロインはバリキャリっぽい感じでお姫様なんだけど女王様を目指すストーリーの中、ヒーローに対して『恋に落ちるつもりはなかったのに気づいたら落ちていたの!』って言っていたのできっとそんなもんだろう。


 そうであってもらいたい(願望)。


(まずはオトモダチからだよね!!)


 婚約者候補たちと個人的な会話をしたことがないんだし、一応上の人たちも誰と婚約してもメリット・デメリットが同じくらいって考えているから私に選択権をくれているのだという話。

 まあ公にしていないだけで父様が皇帝権限で『娘の好きにさせてやれ』って言った可能性もあるんだけど……。


 せっかく兄様たちにお願いして婚約者との時間を過ごせるようにしてもらったんだし、私があれこれ考えたって向こうがどう思うかなんて話してみないとわからないものね。


 そりゃ相手が本音を話してくれるとは思わないけれど、話さなければ始まらない。

 きっと自分の中の問題も、時間が解決してくれる! ……といいなあ。


(正直、自分がこのまま成長して大人になったらちゃんと『大人』になれるのか不安だけど)


 あの頃、私を助けてくれた人たちのように私もなれるのだろうか?

 少なくとも前世の〝私〟の両親みたいな人間にはならないと誓っているが、家庭を持つという希望は抱いていても実現しなかった以上この世界でそれがどうなるかなんてわかったもんじゃない。

 それに皇女様だしね?

 結婚したからって前世の価値観みたいに『夫婦二人で頑張ろうね☆』って感じではないし……多分爵位と領地をもらってとかそんな風になるんじゃなかろうか?

 今だって人に世話してもらって生活が成り立っているので、前世の感覚をこうリセットできたらいいのになあ!


「厄介だねえ……あれっ、ソレイユの毛がすごい抜ける!?」


「きゅーう」


「デデデデリア大変! ソレイユがハゲちゃう!!」


「違いますよ姫様、換毛期です」


「なんだあ、よかった……ってソレイユだめ! 散らかさないの!」


「きゅーう!」


 ブラッシングをして集めた毛をソレイユが散らかした。

 ふわふわとして羽毛のようなそれが部屋中に散らかって、まるで雪のよう。


 それを見ていたら、なんだか無性に〝シエル〟に会いたかった。

 でも残念ながらユベールだってもう今や十五歳の思春期真っ盛り、きっと今頃かっこ良く成長しているに違いない。

 いつでもフクロウになれるようになったと手紙に書いてあったけど、次に会えたとしてフクロウ姿で抱きつかせてくれはさすがに淑女としてあり得ないということくらい自分でも理解している。


「はあ……ソレイユはちっちゃくて可愛いから大きくならないでもいいけど、でもおっきくなってモフモフさせてくれたら嬉しいよ……」


「きゅ?」


 我ながら無茶ぶりだ。

 自覚はある。


 いいじゃないかそれくらい、我、皇女様ぞ!!

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