第64話

 ソレイユの種族はファードラゴン。

 非常にこのドラゴンはレアなのだという。


 聞いた時には腰を抜かすかと思ったよね。

 まだ卵の状態で渡されて、孵化するまでは声をかけ続け、時には魔力も流してやれと言われた時には何が何だかわからなかったんだけど……生まれてみたらあらびっくり、最初は鳥だと思ってたらドラゴンだって言うから二度びっくり、そしてアル兄様に『ものすごく貴重で頭が良い、滅多に見ないドラゴンだよ』って教わって三度びっくりだよ!!


 ファードラゴンというのは知能が高く、穏やかで人懐っこい性格だ。

 その割に好奇心よりも警戒心の方が強く、敵対すると容赦ない。

 土地柄に関係なく己が好んだところに居座ることが多く、ファードラゴンが住むと自然が豊かになると言われている……らしい。


 最たる特徴はその体を覆うふわりとした体毛だ。

 ドラゴンというと頑強なウロコに覆われているイメージだけど、ファードラゴンはその名前の通り毛に覆われているのだ。

 色は様々らしく、特に意味があるのか遺伝なのか、そのあたりの研究は今のところ進んでいない。

 魔法を使うとか、ブレスを吐くとか、その辺りもまだまだ未知数なんだとか!

 そして翼の数はこれまで発見された個体によって違うため、意味があるのかないのかもわからない……つまり謎に満ちた生物。


(よく子供にそんな未知の生物を育てさせようと思ったよね!)


 まあ可愛いからいいんだけどさ。

 ソレイユは今のところ私以外には懐いていない。

 攻撃はしないけど、決して触れさせようとはしない。可愛い奴め。


「はーあ……候補の人たちと『一年間お話をして』一番良い印象を持った相手と婚約するかどうか決めろって言うけどさあ……難しいよねえ、ソレイユ」


「きゅーい?」


 そうなのだ。

 候補が選出され、私が選ぶ立場……なわけだけど、選ぶには情報が必要だ。

 それをお妃さまたちが一生懸命アピールしてもそれはあくまでそちらの事情。

 私もまだ十歳、結婚自体はまだまだ先の話って父様は言っていたしね!


(いつまでも結婚しなくていいっていう発言は聞かなかったことにしよう)


 そういう理由で候補者たちはこの城に住んでいる。

 一年間、定期的に私と接する時間を持つことで彼らとどのような関係を育むか私が決めろというのである。


 そりゃ私は恋愛がしたいなって思ってた。

 前世では生き抜くのに必死で淡い片思い程度のものはあるけど成就はしていないし、なんだったらあれが恋だったのかどうか、自信がない。

 いざ人生これからって時に毒親のせいで……あ、思い出すとムカムカする。忘れよ。


 ちなみに文通しているユベールにはなんとなく、ソレイユの話はしていない。

 何度か書こうと思ったんだけど……なんかこう、

 別にね? ユベールが〝ペットのシエルだった〟ってことはもう過去のことだし、今更それを持ち出してどうこう……とかそういうわけではないし、あれは不可抗力だったわけだし。

 ユベールだって私がそれで新しいペットを飼ったからといって何か文句を言うってわけでもないってわかっているし、私がなんとなく気まずいっていうか……。


 喩えるなら、モトカレにイマカレを紹介するような気持ち……?

 いやなんか違うな。


「はあー……」


「またため息吐いてる。幸せが逃げちゃうよ?」


「シアニル兄様は私の部屋に勝手に入るのを止めてください……」


「まあまあ。可愛い顔が台無しだぞ。ほーらソレイユ、お土産の果物」


「ぴゅーい!」


 どうしてシアニル兄様は私の部屋をフリーパスで入ってくるのかなあ!?

 ちょうど話相手がほしかったのは確かだけど……シアニル兄様ってそういうタイミングで必ず現れるから不思議なんだよね。

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