第65話
「それで? 何を悩んでいたの?」
「……婚約者の話とか、ユベールにソレイユのことをどう伝えようかなって」
「ああ、なるほどねえ」
シアニル兄様は不思議だ。
いつもふわっとしていて掴み所がないのに、いつも私の悩みを聞いてくれて、すごく安心するのだ。
ヴェルジエット兄様とオルクス兄様は難しいことを教えてくれて、パル兄様は遊んで守ってくれて、アル兄様は安心できて、カルカラ兄様は傍にいるとほっこりする。
どの兄に対しても私は信頼と家族としての愛情を抱いているけど、みんなやっぱり違うのだ。
「ヴィルジニアは候補たちとお話できている?」
「それが……」
そうなのだ、私と候補で話をしたり時間を共に過ごすことで絆を築き、最終的に選ぶ……ということになってはいる。
なってはいるのだが、彼らとのお茶会の時間に何故かお妃様たちも参加するもんだからなんていうか……良いところアピールはいっぱいしてもらっているのよ?
多分間違った情報ではない。
ただ大変、偏っているというだけで……。
(それぞれに思惑もあるから、売り込みたいのはわかるんだけどさあ……)
お妃様たちの推挙というところが難しい問題だ。
他の妃に負けられないという面子の問題もあるのだろうから、彼女たちの息子である兄たちには頼ることができない。
だからといって第三者……この場合は他の妃やその皇子に頼むのも、面子の問題が関わってくるのでNGだと思われる。
じゃあトップである皇帝に……となると今度は皇帝がどれかの国に肩入れするのではと疑われるっていうね!!
「どの子が選ばれても問題ないって父様も言ってたのに、なんでこんなに面倒になっちゃったのかなあ」
「うーん……まあ、まずは兄上たちに話を聞いてみたら?」
「え?」
「お妃様たちの意向はぼくにだって推測くらいはできるけど、息子の方がわかることもあるんじゃないかな。兄上たちもヴィルジニアのためならちょっとくらいの苦労は喜んでしてくれると思うよ」
「そうかなあ」
「そうだよ」
シアニル兄様はいつもと同じようにあまり表情を変えないけれど、私の頭を優しく撫でてくれた。
兄様たちはアル兄様以外それぞれ母親と仲良しって程じゃないけど、適度な距離で良い関係を築いているって聞いていたから、
「だいたいさ、ヴィルジニアはしっかりしすぎなの。初めて会った時からずっと言ってるけど、まだ十歳なんだからいっぱいぼくらを頼っていいよ。こき使うくらいの気持ちで」
「こ、こき使うだなんてそんな」
「ヴェルジエット兄上なんて見てご覧よ、ヴィルジニアがいると気持ち悪いくらいソワソワしてるんだから頼ってあげない方が気の毒だ」
「ストレートに悪口になってます、シアニル兄様!」
儚げな風貌はそのままに成長したシアニル兄様だけど、突如として口が悪くなるのは家系なんだろうか……父様が父様だからな……。
「オルクス兄上だって何も気にしてませんって顔しといてヴィルジニアのことこっそり見守ってるんだから、いつ会話を聞かれてるかわかんないよ?」
「ええ……?」
「パル兄上はまあ口が悪いだけだし、アル兄上は気弱だけどあの二人は常識人だからちゃんと話は聞いてくれるし、解決方法も模索してくれるだろうし。カルカラは真面目だからあんまり重たい話をするとアイツの方が知恵熱出しちゃいそうだけどね」
他の兄弟に対しそんな評価を下しつつ、シアニル兄様は私をぎゅうと抱きしめた。
兄様は私が淑女と呼ばれようがなんだろうが、こうやっていつも抱きしめてくる。
それを恥ずかしいと思うのと同じくらい、ううん、それ以上に嬉しいといつも思うのだ。
(頼っていいよって、伝わるからかな)
言葉がまるで伝わっていないわけじゃなくて、このストレートな抱擁という愛情表現に満たされるものがあるのだ。
「可愛いぼくのヴィルジニア。おまえのために水晶で等身大の彫像を作るからね!」
「それは要らないかなあ」
ただ芸術家気質なのもグレードアップしているので、絵画や彫像のモチーフに私を使ってプレゼントしてくるのは止めてほしいと心底思っている。
これがどうして伝わらないのか、謎なんだよねえ!
伝わってよ、等身大の自分の像とかプレゼントされても私は嬉しくないのよ、兄様……!!
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