第七章 婚約者選びは波乱の予感
第62話
ユベールが魔国に旅立ってから五年が経過した。
約束通り、彼はお手紙を定期的に送ってくれる。
最初の数ヶ月はたどたどしい字だったけど、それもだんだんと綺麗になっていった。
後でわかったことだけど、奴隷の子っていう立場だったユベールはあまり勉強しておらず、最低限の読み書きだけしかできなかったから手紙を書くのはかなりハードルが高いことだったんだってさ!
パル兄様、知ってたなら教えてくれたらいいのに!!
(知らなかったら『どうしてお返事くれないの!』って手紙に書いちゃうところだったんだからね!)
まあアル兄様が教えてくれたからいいんだけど。
その話題になってパル兄様に笑われた時はかかとを蹴ってやった。痛がっていたけど知らない!
ユベールのお母さん、クララさんは魔国に帰って一週間もしないうちに目が覚めたらしい。
でも戻ったら魔国で、王城で、記憶の最後は強盗が……息子はどうしただろうかと混乱して大変だったんだって。
そりゃそうだ。
まあとにもかくにも魔国の王子様が頑張って(?)謝り倒して、今は結婚している。
つまりユベールは魔国の王子様になってしまった。
おいそれと会える関係ではなくなった。
文通も……以前よりは、なんていうか、形式張った感じになっているのはきっと間に人がいるんだろうなって思うと、ほんのちょっぴり寂しいな。
(でも王子様なら、仕方ないよね)
帝国と通じる王子かもしれないって、帝国生まれってことで今も疑われているらしいことはオルクス兄様から聞いた。
まだしばらくは大変だろうって。
私は遠い地から応援するしかできないけど、ユベールが幸せならいいなと願うばかりだ。
まあ幸い魔国の王子様……っていうとユベールもそうだからややこしいな?
魔国の王太子となったユベールのお父さん、ユリウス様はとても物静かなで穏やかな人らしい。
今もまだぎこちないところはあるけど、親子関係は悪くないって手紙には書いてあった。
(……いつか、会えたらいいな)
もう前みたいに気安い関係ではいられない。
立場もそうだけど、男女ってこともあるからね!
私の身長はすっかり伸びて大分女の子らしくなった。
前世である程度の年齢だったこともあって、立ち居振る舞いや勉強に関しては
とはいえドヤ顔をしている場合ではない。
「もうアリアノット姫様も
デリアとシズエ先生が嬉しそうに笑い合うのを耳にして、私はぎくりと身を強張らせた。
そうなのだ、婚約者の選定である。
(兄様たちもほぼほぼ相手が決まったものねえ)
ヴェルジエット兄様が婚約者とこの五年の間に結婚したことによって、他の兄様たちもそれぞれ婚約者が決まったのだ。
となれば順番的に私にも……というのは当然の流れであって、これまでも話があったのを父様や兄様たちが『まだ早い!』ってせき止めていただけとも言うんだけど……もういい加減それじゃあ通せなくなったってのが現実だ。
ただ、問題は婚約者ってのが妃たち推薦っていうのに何か感じるものがあるんだよねえ!
私は楽しそうに笑うデリアとシズエ先生に気がつかれないように、そっとため息を吐くのだった。
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