第52話

 まあ父様が奴隷を買っているかどうかは別問題として、いや大問題ではあるんだけど。

 ペットが奴隷ってどういうことって話じゃない!

 いくら奴隷ってのが人権をある程度守られている存在だからとしてもだよ!?

 そういう制度のない世界で生きてきた記憶のある私には絶対的に受け入れられないわ!!!


 いやある意味でそういう人たちを裕福に暮らさせてあげるという皇女としての慈善活動の一環になるのか……? ならないよな……。


 まあ今考えるのはそこじゃない。

 というか目的を忘れてはいない。五歳なりにやることはやるのだ。


 うん、お昼寝もね!

 道中の馬車でテトに膝枕してもらってぐっすり寝ました。


「ねーえ兄様、ユベールは『南方』って言ったけど帝国の南ってとても広いよね? カルカラ兄様のお母様、第六妃様のお国と近いの?」


 無邪気を装って聞いてみる。

 正直地理っぽいことをシズエ先生にもレクチャーしてもらって大きいものは把握したんだけど、正確なものと馬車で移動しながらの景色が結びつかないんだよ……。

 旅行あるあるだよね……。

 なんとなく『遠くまで来たなあ』的な感覚!


 おわかりいただけるだろうか……前世ただの小市民、今世は皇女だけどただの幼女……。

 すごい兄たちのおかげでついでに・・・・私までお利口さんに見えていることだろうが、中身はまったくもって普通の人間なのだよ……!


「そうだな、第六妃の出身であるマーナターミニーア国よりはもう少し皇都手前になるか。地図で言えばこの辺りからこの辺りまでが酪農地帯だが……どこまで学んでいる?」


「んっと……酪農地帯は元々私たちのご先祖、初代皇帝が治めていた土地で、肥沃な大地があるから農作物がよく育つこともあって酪農が盛んになったのよね?」


「そうだ。帝国内は農作物がよく育つ土地は複数あるが、生き物にとって暮らしやすい気候かどうかはまた別だ。この辺りの土地は気候が温暖なだけでなく、変化も少なく穏やかであることから酪農だけではなく畜産も盛んだ。品質も他の土地より栄養価が高い」


「そうなのねえ」


「ヴィルジニアはちっこいからなあ、もっと牛乳飲んどけよ!」


「飲んでるもん!!」


 さすが皇室、食べるものはどこまでも最高品質。

 なので乳製品などはこの南方のものを使っている……という話はシズエ先生から聞いている。


 ちなみにパル兄様にはからかわれっぱなしだが、五歳児なんだからな!

 これからなんだよ私の背とその他の成長は!!


(くっそう、いつかクラリス様みたいにバインバインになれるかなあ……!!)


 前世でも正直スレンダーボディだったのでああいうのに憧れるんだよなあ。

 胸はあったらあったで肩が凝るって中学時代の同級生が言ってたし、年取れば変わんないってバイト先のおばちゃんたちも言ってたけどさあ。


 せっかく転生して美幼女なんだよ!

 このまま美少女から美女になりたいけど欲を言っていいならナイスバディにもなりたいです!!


「それで、大雑把な話ではあるが……あの少年」


「ユベールよ、兄様」


「……別に名前を呼ぶ必要はないだろう?」


「でも名前があるのよ?」


「……」


「オルクス兄様?」


「オルクス兄上はお前があのユベールってガキに心を砕いているのが気に入らないんだろうよ。兄上たちよりも先にお前と仲良くなって、寝食共にしてたんだし」


「え」


「そこまでは言わない。だが皇族とただの民では立場というものがある」


「へえへえ、建前が必要ってのも大変ですね」


 おかしそうに笑いながらパル兄様は指でとんとんっといくつかの場所を指さす。

 食い入るようにオルクス兄様を見ていた私だが、そのオルクス兄様に「地図を見なさい」と叱られたのでしぶしぶそちらを見ると精霊さんがちょこんと地図に座っているではないか。


「今パルが指さしたあたり……そう、そこで精霊たちが立っているあたりだ。あの少年から聞いた話では、自分たちが住む村の名前まではわかっていなかったが農場主がどこの町と取り引きしているかは聞いていた」


 クララさんが奴隷という立場であったことから、ユベールも母親と一緒に農場の外に出たことがなかったらしい。

 だが何度か農場主であるドミーニさんからの発言でいくつかの村や町の名前を耳にしていたことから、それらを踏まえて調べることにしたんだそうだ。


「……農場、残ってるかな」


「残っていたとしても、もう動物たちはどこかに引き取られているか……あるいは親戚が継いでくれているか。それとも人手に渡っている可能性も否めない」


 そうなると今更調査をしにきたと言っても相手方が受け入れるかはわからないとオルクス兄様は言った。

 皇族がわざわざ調査すると声に出して言えば無理難題は大抵通るが、それでは目立ちすぎる。


 そうしないためにあくまで私たちは視察のついで・・・に寄ったことにしなければならないのだから。

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