第六章 小さな姫の大冒険
第51話
オルクス兄様は私が父様の説得なんか無理だろうってタカを括っていたようだが、成功させてやったぜフッフーン。
まあ、代わりにパル兄様と兄様率いる魔法師団がついて来ちゃったのは解せぬ。
ちなみに魔国の兵士と違って、この国での魔法師団ってのは『魔法を使っていざって時には援護もできる部隊』であって、基本的には武器を使うんだそうだ。
いざって時の魔法ってどんなのか聞いたら、敵味方関係なくぶっ飛ばすことらし。
ナニソレ怖い。
で、名目上はオルクス兄様が視察、それに私が『後学のためについていく』と。
勿論私には視察団が連れている護衛兵とは別にグノーシスとテトがピタァっと私の真横についているわけだけども。
……なんだろう、攫われる宇宙人の気持ちがなんとなくわかるというか。
まあそれはともかく。
そしてパル兄様は南方の街道に出るという盗賊団の討伐部隊なのだ。
別に地元の兵たちだけでなんとかしろと投げてもいい案件だそうだけど、こうして皇族が顔を出すことも大事なんだってさ!
攻撃系に手段を持たないタイプの皇族はオルクス兄様みたいにこうして視察、アル兄様みたいに各所の魔道具設置、シアニル兄様みたいに芸術への啓蒙活動……?
うんまあとにかく何かしら国のために動いてますよアピールが必要なんだとか。
「私には何ができるのかなあ」
「姫様はカワイイからいろんなとこに顔出すだけで喜ばれそうだけどねーえ?」
「こらテト。姫は真面目に考えておられるのだから茶化すな」
「ええ!? 本気だけど!?」
「余計に悪い。……申し訳ございません、アリアノット様」
「あはは」
うーん、カワイイって言ってくれるのは嬉しいんだけどさあ。
それでは世の中生き残っていけないと思うんだよ。
いや、可愛くないよりは可愛い方がお得な感じはするのでそこは否定しないけど、今は幼女っていう可愛さがプラスされてるから何しても可愛いで済むんだろうけど、もうちょっと大人になってくるとまた事情が変わってくるじゃない?
その時までに私は何ができるのかなって話。
だって慰問で各地を回って擦り傷直すだけの皇女様って想像するだけでも微妙。
(……大丈夫かなあ、ユベール)
一応兄様たちの中でも比較的慣れているアル兄様と、後はシアニル兄様の二人に彼のことは頼んである。
私が南方のその家を探して、二人の安否やその他を見てくると話したときにはユベールも相当難色を示したけど、ヴェル兄様に『じゃあお前が行けるのか』って問われたら顔色をなくしてガタガタ震えちゃったからね……。
アレは兄様の顔が怖かったからじゃない。きっと。
とりあえずは南方、視察先ではオルクス兄様はお仕事をしつつ私はパル兄様と行動を共にする。
討伐部隊の隊長さんなのにいいのか? って思ったら『皇族が参加している部隊が討伐に来た』って事実さえあればいいんだってさ。
情報によればパル兄様どころか部隊の半分くらいでいい程度の小さな盗賊団らしい。
「まあ旅行を楽しめ……とは状況的に言えねえが、お前は俺とオルクス兄上に守ってやるから好きに動け。ただ何も言わずにいなくなんな」
「はあい」
「まあまずは護衛騎士のお前らがこいつから目を離すなよ」
「承知いたしました」
獣人族は嗅覚も優れているから私が少し離れても居場所がわかっちゃうらしいけどね!
そういう意味ではとても頼もしい存在だけど、欠点としては魔法耐性がやや弱めってことらしいから……正直、本当に魔国の暗殺者が来ているなら、調べている私たちが襲われる可能性だってあるわけで。
そうなるとグノーシスとテトでは分が悪いのでは?
まあだからこそパル兄様が一緒なんだろうけど。
(父様としても、魔国と事を荒立てたくはないって感じだったしな……)
魔力が見えるから行ってみたい、役に立ちたいとお願いした私に難しい顔をしつつ許可を出したのも、この件が少しでも早く解決してくれたらいいなっていう気持ちがあるんだと思う。
ただ娘が行きたいって言ったからっていう適当な判断じゃないと思いたい。
「そういえば兄様たちに相談しようと思ってたことがあって」
「うん?」
「どうしたよ」
二人の兄が任せろと言わんばかりの顔でこっちを見たので、私もにっこり笑顔を浮かべてみせる。
解決してもらいたい、切実に。
「父様がさ……ペットがいなくなって寂しいだろうから奴隷でも買うか? とか言い出して……断ったんだけど戻ったらまた変なの用意してそうで怖いの……」
私の言葉に二人がとてつもなく嫌そうな顔をしたのを、私は見逃さなかった。
逃がさないよ!?
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