第40話

 魔道具に関しては帝国では未知の物ということで、設計図と合わせてチェックに数日かかると聞いた私はそれを了承して部屋に戻る。

 私があの魔道具を使ったところで強い回復の魔法が使えるとかそういうわけではないけど、同時使用が可能な防御の魔道具なんかも見繕ってくれるんだそうだ。


 できるだけ可愛い装着品の形に仕上げるからねと言ってくれたアル兄様、マジ紳士。

 今度パル兄様がその魔道具の実験に付き合ってくれるってさ!

 本当にうちの兄たちは私に優しくて、幸せだ。


(今度カルカラ兄様もお外に連れて行ってくれるって言ってたし……)


 外と言っても王城の周りだそうだけどね。

 今のところ自分の部屋とその周辺、兄様たちのお部屋くらいしか行き来していない幼児としては冒険気分である。


「もどったよー」


 それにしても疲れた!

 父様のお膝の上で延々とお話を聞いただけっちゃ聞いただけなんだけど、気持ち的に疲れたのだ!!


 ジッとしてるって結構しんどいんだぞう。


「あれ? シエル?」


「……くるるっぽ」


「鳴き声がか細い鳩かな……?」


 思わず突っ込んでしまったが、シエルの様子がおかしい。

 私が出る前もいやそうな素振りを見せていたけど……。


 今は私の姿を見てほっとしているのと同時に目を閉じて、拒絶の態度ではないか。


「……もしかして、今は何も聞きたくない、のかな?」


「……」


「そっかあ。……うん、いいよ。なでなでしたげるね!」


 それでも私の届かない位置じゃなくてベッドの上ってあたりがシエルも不安なんだと思う。

 魔国とシエルがどんな関係かわからないけど、こんなにも弱っている姿はあの庭でシエルを発見して以来だと思うから、相当なんだと思う。


(クラリス様は悪い人じゃない、とは思うけど)


 悪い人じゃないから大丈夫なんてことはないのだ。

 怖いと思っているなら、それがシエルにとって全てなのだから。


 それに私の目から見てもクラリス様はわかりやすいけど、ウェールス様はよくわからない。

 まあ宰相補佐って話だったから、政治家ってやつで……ヴェル兄様やオルクス兄様が難しいことを話している時と同じように、複雑な考えを持っているに違いない。


 だとしたら私はとりあえず・・・・・彼らと直接接触は避けるべきなのだ。

 皇女という立場である以上、会食やお茶のお誘いはあるかもしれないし、その場合は断れないかもしれない。


 その際も余計なことを口にして、変な約束をとりつけられないようにしないといけない。

 できるかぎり、誰でもいいから兄様たちに同席してもらえることが望ましい。


(まあ五歳児だけ呼び出すこともないだろうけど……いや、五歳児でも皇女は皇女だもんね)


 息子を婿入りさせたいとかそんなこと言ってたんだから、油断は禁物だ。


 ふわふわとしたシエルのその羽をそっと撫でてから私は負担にならないよう気をつけながらシエルを抱きしめた。


「ほーう……?」


「大丈夫だよシエル。私は、シエルの味方だからね……!」


 そうだ。どんな状況でも。

 そこに『味方がいてくれる』だけで心強いものなんだって、私は誰より知っているじゃないか。


 だから言葉で伝えよう。


「大丈夫だよ。私に何ができるかはまだわかんない。でも、私はシエルの味方でいるからね」

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