第39話

「アル兄様!」


 退室した後めいめい部屋に戻ろうとする中、私はアル兄様の裾を引っ張った。

 兄様はすぐに足を止めてくれて、私と目線を合わせるためにしゃがんでくれる。優しい。


「うん? どうしたの、ヴィルジニア」


「あのね、あのね、ちょっと教えてほしいことがあって……この後お時間いいですか!」


「勿論だよ」


「ンだよ、何悪巧みしてんだ? ヴィルジニア」


「悪巧みなんてしてないもん! パル兄様も相談に乗ってくれるなら一緒がいいな」


 母親関係が落ち着いたからなのか、パル兄様はアル兄様と仲直りしたらしい。

 というか、まあほら、表向きそうしてただけで別に本人たちはそこまで……だったしね。


 そうしてアル兄様の部屋に移動して、私たちはテーブルを囲む。

 相変わらず兄様の部屋は使用人も少ないし距離感がアレだけど、まあ秘密の話をするにはうってつけっていうか……別に秘密にしなきゃいけない話かどうかもわかんないけどね!


「それで、どうしたんだい?」


「あのねえ、魔力が見えるのって何か役に立つ?」


「え?」


「見える? 魔力がか? 魔法として形になって出てきたモンじゃなくて?」


 私の発言に二人が首を傾げる。

 どうやらやはり普通は見えないもののようだ。

 パル兄様の質問に、私はどう答えるべきかと思いながら説明してみせた。


「兄様たちの中にぐるぐるしてるのとか、さっきクラリス様が怒ってた時にパチパチしてたのとか……えっとね、なんて言えばいいのかな。蜘蛛の糸みたいに細くって、キラキラしてて」


 こう、モヤのような……いや違うな、それよりはもうちょっと濃くて。

 ううん、表現が思いつかないな!

 ジェスチャーも加えて説明するものの上手く行かず、兄様たちも困惑顔だ(といってもアル兄様は箱を被りっぱなしなのだが)。


「魔力の可視化なあ……いや、あまりこの国じゃあ聞いたことねえな。見えても特にないがあるってわけじゃないし」


「そうだね……でもほら、魔道具工房なんかだと魔力の通り道がわかると助かるかも知れないね」


「でもあれは職人が魔力を流す感覚で作ってる代物だから、他人が見ても直せるとかそういう問題じゃねえだろ」


「ええと……うん、そうだね……」


 魔法使いとして名を馳せる兄様たちの反応からするに、この『魔力が見える』という能力は大変微妙なもののようだ。

 うん、まあ見えるだけだしね!


 ただまあ珍しいことには違いない。


「見えても困るものじゃない?」


「ヴィルジニアが現時点で困っていないなら、大丈夫かな」


「一応俺らでも調べてやるから、異変とかあったらすぐに言えよ」


「はあい」


 ポンポンと頭を撫でられるその感触は心地いい。

 しかし、そうかあ。

 魔法にそこまで頼っているわけじゃない国だし、魔力が見えたところで特に……って感じか。


 シズエ先生から聞いた話だと魔力を多く持っているからイコールで優れた魔法使いになるわけじゃないって話で、魔力以外に魔法を使うための才能ってものが必要らしい。


 才能があっても魔力がないケースもあるそうなので一概に何が良いことかというのは難しいらしいけど……まあ魔力がたくさんある人は魔国で暮らしやすいかもね!


(それにあの魔道具があれば、私の弱っちい回復でも回数はこなせるわけだし)


 ゲームでもレベルが低い初期ヒールだろうと回数打てればいいんですよ!

 これまで十回しかやれなかった回復が百回になったら強いじゃないか!!


 まあ実際にはまだあの魔道具使ってないからどんなもんかわかんないけどね。

 使える日が楽しみだなあ!

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