第38話

 クラリス様はこちらが何も問わずとも息子語りを始める。

 なんでも息子が二人いて、上から順に十五才と十二才。

 親の贔屓目を抜きにしても賢くて気性は穏やか、見目も良い……とのこと。


 いや絶対親の贔屓目入りまくりでしょ?

 うちの父様が私について『絶世の美女になる』とか重臣たちにいつも語ってるアレと同じでしょ、絶対。わかってんだよこんちくしょう。


 愛情からだってわかってるんで生温い気持ちでいますが、後に私と会った人たちが『えっ……』って顔をするので止めていただきたい。割と本気で。

 確かに可愛い系の顔をしている幼女で自分でも結構な美形だと思うけど、対比の兄たちがもっと美形なんでね!!


「申し出はありがたいがその件についてはまだ遠慮しておこう。娘の他に息子たちもまだ婚約者が定まっておらんし、そちらの国で生まれ育った子らにはこの国の空気はおそらく辛かろう」


(……?)


 父様の言葉の前半はわかるが、後半は意味がわからなくて私が小首を傾げる。

 それについてはやはりまだ知識不足だな。兄様たちも『そうだな』って顔してるし。


 クラリス様はグッと言葉に詰まった様子で黙ってしまった。

 そしてそんなクラリス様の代わりに、ウェールス様が言葉を紡ぐ。


「確かに魔素の濃い土地で生まれ育った子供たちにとってこの地の魔素の薄さは慣れぬことも多いかと思います。お気遣い、ありがとうございます陛下」


「うむ」


「さすがに息子を婚約者に……というのは早計であったとこちらも反省いたしますが、そのくらいの気持ちをもって我が妹を探したいのです。魔国の未来のためにも、どうぞ協力をお願いいたします」

 その言葉に、父様は頷く。

 確かに私の婚約者として、他国の王族の血を引く年齢がちょうどいい人ってのは魅力的なようにも感じるけど……。


 だからってやっぱりね。

 そんなトラブルを理由に人身御供で送られる人とは良い関係を築ける気がしないわけですよ、幼女としても。


(それに十五才と十二才でしょ、どっちがこっちに送られるにしたって家族と離れ離れになるわけで……それに関してはやっぱりまだ幼いっていうか)


 いやこの世界でいえば、政略結婚とかが前提なんだからあちらもそのくらいは覚悟の上なんだろうけど。

 というかクラリス様の思いつきじゃないよな?

 ウェールス様も特に何も言っていなかったからついでに帝国との繋がりができたらラッキーくらいの話だったのだろうか。


 父様たちはまた別の思惑もあるだろうし、なんとも言えないけど……。


「くっ……可愛い娘が手に入ると思ったのに……!!」


「クラリス、クラリス、御前で本音がだだ漏れだよ」


「ははは、可愛い娘を誰がくれてやるものか」


 あっ違った、やだもうこの人たち。

 まあ本音がどの程度かはわからないけど……。


「いずれにせよ魔国とはこれからも良い付き合いをしたいと願っていることは事実。わが娘を嫁にやるなど言語道断だし婿なんぞ当分いらんと思っているのでそこは気にしないでくれれば良い」


「くっ……」


 前半はいいけど後半がダメです、父様。

 悔しがらないでくださいクラリス様。


「こほん。では捜査について詳しくご相談したく……」


「ああ、そうだな。宰相、準備を調えよ。ヴェルジエット、オルクス、お前たちは残れ」


 そうして父様はテキパキと指示を出すと私に頬ずりをしてぎゅうっと抱きしめる。

 それからチラッと兄様たちを見てにやりと笑った。


「それでは第三皇子殿下がたは本日お下がりいただき、また後ほど決定した内容をお知らせいたしますので……」


 宰相がどこか遠い目をしながらそんな風に言うのを背に、私たちは退室したのだった。

 うう、ヒゲでじょりじょりされたところが痛い。

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