第32話

 どうも私の婚約者についてはいろいろと思惑があるのは当然ながら、まずは当然『後ろ盾になれる』家柄であること。

 私は七番目なので第七皇女だが、順番的にも七番目の皇位継承者なのだ。

 ちなみに言っておくがこの皇位継承権、放棄できないらしい。


 いいじゃん、ヴェルジエット兄様いるんだから放棄で……と三番目以降は思っているわけだが一応これ、法律で決まっていることなんだってさ!

 過去に帝国内を揺るがすほどの継承権争いがあった記録も残されているらしいが、それでも男女問わず上から順に数字を振っているあたり皇室だけは特別なんだって話。


 まあ魔力の量とか後ろ盾とか、結局そのあたりも絡んでくるので順番だけがすべてじゃないんだろうけど……私の場合はもういろんな意味でカッスカスだからな……。


「なかなか良い者がいないな。父上も呆れていた」


「だぁーれ?」


「お前の婚約者候補だ。お前の希望も取り入れて、尚且つ家柄も見たし、帝国に対する野心がないものと絞ってはいるのだが……」


 ふう、とヴェルジエット兄様がため息を吐く。

 その姿だけなら色っぽくて大人の魅力に溢れてるんだけどなあ。


 ものを見る時は目を細めて見たり考え事をすると眉間に皺がよったりちょっと都合悪くなるとすぐ魔力がだだ漏れたりなんかするからみんなに誤解されちゃうんだよなあ!

 美形でそれだからもはや魔王チックだもん。

 私にもそう見える時があるくらいだから相当だぞ、このポンコツ兄め……。


「気遣いができて頭が良く、寄り添えるような男か……弟たち並となるとやはりそういない。我が弟ながらなかなかいい男に育ったからな」


 うん、誇らしげにそんなこといううちの長兄ブラコンっぽい。

 いや私もいるのでシスコン?

 そもそもこれ親目線的な?


 一応重臣たちにも話が通っているらしく、父様とヴェル兄様のご機嫌取りには私が有効と思われているのか割と最近は大切にされるようになった気がする。

 陰口が減ったことで実感するのもどうかと思うが。


 お妃様たちに関しては未だに会ったことがないんだが、それでいいのか?

 公式行事では基本的には五歳を超えた子供は独立した席が設けられ、妃たちとは座席の位置が違うっていうのはシズエ先生から教えてもらった。

 図も書いて見せてもらったけど、顔は見えるけど会話するにはほど遠い距離だなって感じ。


「ねーえ兄様、公務っていつか私もできる?」


「ん? ああ……お前向きの公務か……そうだな。……父上に法案を通したい時にお前に持って行かせるとかか……?」


「アウトだよ兄様」


 娘溺愛な皇帝相手には確かに有効かもしれないけどそれで通るようならみんな私に持って来ちゃうでしょうよ。

 良いも悪いもあるでしょ、法案って!!


「……まあ、当面のお前の仕事は学ぶことだ。そういえば魔国の人間が到着するのは明後日だが……お前はなるべく会いたくないと言っていたが、挨拶だけはきちんとするんだぞ」


「はい、兄様」


「今回来るのは魔国の王女だ。既婚者でな、夫である宰相候補の男を連れて……まあ、外交でやってくる。あちらで開発した魔道具を披露したいそうだから、アルにも同席させたいところだがあいつはいやがるだろうな」


 挨拶はともかく、アル兄様は相変わらず基本的には室内生活だもんね。

 それにしても魔国からくるのは私と同じお姫様なのか!

 まあ相手は既婚者ってことで年齢は上だってことは確かだけど。


(シエルのこと、バレないようにしなきゃ)


 未だ意思疎通が大変なんだよね。

 アル兄様が意思疎通をするためにあれこれ手を尽くしてくれて、文字カードなんかも用意してみたんだけど……シエルは『話せるけど書けない』っていうタイプのようだ。

 とりあえずわかったのは、公用語……この大陸で言えば帝国が使う言語なんだけど、それはわかるみたい。

 とはいえ、あまり難しい言葉は使えなくて『はい』『いいえ』は書けるけど他は無理、みたいな?

 くちばしでちまちまカードを掴む姿が可愛かったとか言えない。

 

(この世界は識字率が高いってシズエ先生は言ってたけど……)


 特にこの帝国はそういったことに力を入れていると誇らしげだった。

 なんでも数代前の皇帝がこれからの世を担う若者たちの教育に熱心だったそうで、それもあって帝国はよその国より強い力を得ることに繋がったんだそうだ。


 ただ、海を渡った土地である魔国も似たような感じらしい。

 魔法国家ということで魔力の強い人がモノをいうって感じではあるもののあちらも国土は広く豊かな資源と魔素で人々の生活は豊かなんだもんね。


(行ってみたいなあ、魔国)


 どんなところなんだろう。

 いつか、外交かなんかでついてっちゃだめかな?

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