第33話

 そして迎えた魔国からのお客様を迎える日。

 この日は、父様と兄様たちと私がお迎えした。


 どうして妃たちがこの場にいないのか。

 それは魔国の人たちが魔力に満ち満ちていて、それを圧として女性は受け止めやすいらしい、とのことだった。


「あれ……じゃあ私はなんで……?」


「お前はそもそもヴェルジエット兄上と一緒でも平気だしな、母上たちとは違い遠慮する必要がない」


「違う。末姫のお披露目も兼ねているだけだ。それに俺はヴィルジニアには優しい!」


 オルクス兄様の言い様だと私が魔力に鈍感だから大丈夫みたいに聞こえるんですけど?

 ヴェル兄様もそこで妙な反論の仕方はしないでもらいたい。


 他の兄様たちはそんな私たちのやりとりに笑っているし、シアニル兄様はどこかあらぬところを見ている。相変わらず自由人だな……。


「お前たち、客人が来る。静かにしろ」


 父様の声に、みんなが姿勢を正した。

 かと思うと、父様がにこーっと笑って私に手を差し出すではないか。


「ニアは余の膝の上でよかろう。お前の披露目でもあるしな!」


(ええ……)


 それはちょっと……他国のお客様の前で……?

 そう思ったけれど父様の近くにいる侍従長さんも宰相さんも首を横に振っている。

 諦めるんじゃない!


 とはいえもうお客様はすぐそこに来ているというし、父様のご機嫌を損ねるとそれはそれで面倒だし、仕方がない。

 ここは幼女が一肌脱いであげようじゃありませんか。


 スンッとした表情をしていたのだろう私に、カルカラ兄様が「ヴィルジニアがいい子で本当に助かるよ……」と小さな声で言ったのがなんとも。

 私が大人しく父様の膝の上に乗ったのを見て、宰相が頷いた。


 そしてラッパが鳴って……って、膝乗り待ちだったのかい!

 結局お客様待たせてるのかよ!!


(……いや、この場合は待たせることができるくらい国として力の差があるってことなのかな)


 最近勉強頑張ってるからそういうことも学んだ。

 大陸が違うとはいえ、双方共に大きな国家だ。

 でも物理的な力で、帝国は魔国に勝ると聞いた。


 魔法に関しては……正直、どこがどうとかそういうのはいまのところまだわからないけど。理屈とかルールとか、なんかいろいろあることはわかった。

 ただその中で、私は他の人と少し違う部分があるっぽいということも理解して、それについてどう活かしていいのかわからず具体的にこれが良いことなのか悪いことなのか、それも判断できなくて黙っているっていうか。


 お客様が来るからそれどころじゃなかったっていうか。


「ようこそ、魔国からの客人よ。貴殿とは初めて言葉を交わすかな?」


「……うふふ、歓迎ありがとうございます。以前に一度お目にかかったことがございますが、これを機に覚えていただけると嬉しいですわ」


 父様の言葉に応じたのは、ボンキュッボンな美人さんだった。

 豪奢な金髪に赤い瞳、そしてそのスタイルを引き立てるセクシー系でありながらも美しい装飾の施されたシックなワインカラーのドレス!


 私もいつかあんなふうになりたい……!!


 今のところはぷくぷくもっちもちですけど。

 最近兄様たちが私におやつを渡す頻度が多くて食べないとションボリするから食べるけどこれはやばいんじゃないか? ってデリアと対策を考えなくちゃいけなくなっている日々なんですけど。


 助けて牛乳。


 まあそれはさておき、とりあえず父様の言い方はまず間違いなく失礼だった。

 多分あの人のこと、覚えてるかちゃんと事前情報を頭に入れておきながらあの態度。


(……魔国からの訪問を、よく思ってないっぽいな)


 決して関係性は悪くなかったはずなんだけど、どうしてだろう?

 私の疑問を察知したのか、オルクス兄様が何か指を軽く動かしたと思ったら精霊さんが私の肩に乗った。


 最近知ったのだが、精霊さんは特定の波長の合う人しか見えないらしい。

 魔国の人たちや父様、兄様たちのように『魔力』が強い人たちは精霊と波長が合わないことも多いのだとか。

 魔力と精霊力の違いというのはよくわからないが、精霊があとはその人を好いているかどうからしいんだよね。


 私は好かれているらしい。えっへん。


『なんかねえ、オルクスからの伝言ね? 魔国はつい最近、権力争いがあったみたいでえ……それの関係で人を探しているらしいのよお』


(人捜し……)


 思い浮かんだのは、怯えたシエルの様子だ。

 魔国の人たちと聞いて、嫌がっていた。


『それでねえ、あの人の弟のお嫁さん? なんだってえ。今もまだその権力争いは落ち着いてないから、厄介ごとに帝国を巻き込まないでほしいから皇帝陛下は怒ってるらしいわよお』


(……なるほどね)


 そりゃ父様も歓迎しないだろう。

 とはいえ友好国ではあるし、力関係でやや帝国うちが勝っているにしても断れないってわけだ。


 王女様の弟のお嫁さんってなると、シエルは該当しないことになるのか。

 少しだけホッとした。


 そんな中、美女は一歩前に出る。わたしと視線があった。

 彼女は優美な笑みを浮かべるとすっと淑女の礼を見せる。完璧だ。


「改めてご挨拶させていただきますわ。魔国オルフェウスが第一王女クラリスと申します」

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