第30話
「ってことがあったの。びっくりでしょう? シエル」
「ほーう」
「ヴェル兄様の婚約者ってね、まだ十四歳なんですって」
この国では成人に該当するはっきりとした年齢は定まっていない。
ただなんとなく、十五歳くらいを境に……っていう感じらしくて、それを待って輿入れから皇太子妃として少しずつ政務に携わっていくようになるんだとか。
私にとっての義姉になるわけだが、九歳違いなので下手をしたらヴェル兄様たちよりも姉妹っぽくみえるかな? なーんて……。
そんなこと言ったらヴェル兄様が落ち込みそうなので言わないけれど!
「私の婚約者かあ」
国外の王族に嫁がせるのが一番なのだろう、政治的には。
その国と繋がりを持ちたい人たちってのがどのくらいいるかとか、それによってどのくらいのメリットがあるのかっていうのが問題になるんだとは思うけど……そういう意味で兄様はその人たちが
父様は私を外にやって、特定の国に力をつけさせるつもりはないらしい。
帝国は今のところとても強いけれど、大きな国土を持つ分、苦労もある。
勿論帝国以外の国と上手くやる意味も考えれば、私を嫁がせることも良い話らしいのだけれど……それでも、他国に嫁がせる前提なら幼いうちからでなくてもいいらしい。
らしい、らしいばかりだけど私にわかるのはそんな程度なのだ。
なんでも決まったり、そう考えている人がいる……というやりとりを直接してないからな!
まあ五歳に直接話を持ってくる人もいないだろう!!
(……私に話しかけるのでさえ、父様の機嫌を伺ってってところに加えて最近じゃあ兄様たちの壁があるからな……)
そうなのだ、私が『兄妹仲良く』『家族仲良く』を目標に掲げたことは成功した。
成功したら今度はどうやら彼らも末っ子が遊びに来てくれるのだから大歓迎! どころか構っていいんだ! みたいな解釈で毎日のように誰かしらが連絡を寄越すのだ。
あ、シアニル兄様は前触れなしで唐突にやってくる。
もうデリアも騎士たちも慣れた。
サールスはあの神出鬼没っぷりが好きじゃないらしいけど、テトは同じように気まぐれなところがあるから共感できるとかなんとか……。
「そういえばね、シエル」
「ほーう?」
「今度ね、魔国からのお客様が来るんだって」
魔国……そう、魔族が治める国だ。
海を越えた大陸地、多くの偉大なる魔法使いが生まれ育つ地とも言われている。
この国ではアル兄様のように魔道具を駆使して生活を潤わせているけれど、魔国の人たちはそんな道具を必要としないくらい生活のほとんどが魔法を使ったものなんだって。
私じゃ暮らせないな……ははは。
まあ私みたいな人が大半だから、どこの国も魔国と政略結婚をする場合はあちらから来ていただく……みたいな感じになっている。
最近じゃあ魔力の弱い人や元々持ち合わせていない人が暮らしやすいようにいろいろと工夫が凝らされているってシズエ先生が教えてくれたけど、実際はどうなのか誰も見たことがないからなんとも言えない。
「鳥人族と知り合いの人だといいね!」
「……ほーう」
「あれ? シエル、嬉しくないの?」
「ほほほほーくるっぽー」
「それどういう感情?」
シエルの〝鳴き声〟がおかしくなるのはどうやら感情に左右されるのではないかとアル兄様は言っていた。
今のところ「ほーう」「ぴぃ」「くるっぽー」の三種類出せるんだけど、それ以外の鳴き声を試してくれと言ってみたところ無理だったのだ。
本人は頑張ってくれているのが伝わるんだけど「ホーホケキョ」と私が言ったのに続いて試そうと「ほー……ほー…」までは上手く言ったのだが「ほほほほほー」となって二人してずっこけたのはいい思い出である。
「もしかして、魔国の人が怖い?」
「……ほー」
なるほど? わからん。
でもシエルがいやがっていることを、私は無理強いしたくない。
「わかった、シエル。魔国の人が信頼できるかどうかはまた別だもんね。そこについてはオルクス兄様に相談するよ。絶対に、シエルのことは秘密にしてもらう。魔国の人がいる間は、ちょっと退屈だろうけど……この部屋にいてもらって、アル兄様に結界も張ってもらおうね」
「ほーう……!」
「退屈しないように、私もなるべくお部屋にいられるようにするからね!」
私は末っ子の皇女様だもん。
このくらいの我が儘は、許されるはずだ。
シエルは私の言葉が嬉しかったのか、大人しくモフモフさせてくれたのだった。
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