第28話
「お前が、生まれた日……俺は、お前のことを、見に行った」
「え」
ぽつりと零すように、ヴェルジエット=ライナス兄様がそう言った。
二十歳も下に、初めての妹。
名付けをするという父と共に、私の元へと訪れた兄様を待っていたのは、医師と侍女の必死な呼びかけ。
「出産を終えた第七妃の容態が思わしくなく慌ただしい雰囲気の中、お前は……温かな布に包まれて、ベビーベッドの上にいた」
元より後ろ盾のいない第七妃。
皇帝だけが頼りだった彼女の命が失われる中で、ベビーベッドの中の私は、どれほどちっぽけに見えたことだろうか。
「父上はお前を絶対に守るだろう。だが、それがお前のためになるかと問われたら、わからなかった」
ああー……あの性格だものね!
だからなのだろうか?
父様が言い出すよりも先に私の婚約者を決めようとしたのは。
「だから他の妃たちが権力を持ってやりたい放題にならないよう、調整をして……ようやく、実を結んだと思ったらお前が他の連中と仲良くしていると知って……」
段々と小さくなっていく声。
父様は各国から妻を娶ることで、勢力が偏らないようにした。
だから妃たちに対しても平等でなければならない立場で、正しい正しくないではなく誰かに肩入れせず子供たちのやりたいようにやらせているってところなのだろう。
や、それについては私が気づいたってわけではなくシアニル兄様が教えてくれたんだけどね!
ははは、世界事情すら知らない五歳児にそんな深読みはできませんよ。
(つまり兄様は)
「つまり兄上は自分はこんなに頑張っていたのに弟たちに出番を奪われて功を焦っていきなり婚約の話を切り出してしまい、名前も他人行儀にフルネームで呼ばれて落ち込んでいるんだ」
「オルクスう!」
「まあわかったと思うがヴェルジエット兄上は家族に対してポンコツで、オルクス兄上は空気が読めない」
「ポンコツと空気が読めない」
「パル! お前も変なことをヴィルジニアに教えるな!!」
いや的確よ、ほんと。
つまるところ何か。
私があんだけ悩みに悩み抜いたことは無駄であったと。
「……わかりました。では」
「……ヴィ、ヴィルジニア?」
すっくと立ち上がる。
幼女の心を弄んだ罪は重いのよ!!
「ヴェルジエット兄様」
「な、なんだ」
「しゃきっとしてくださいませ」
「……?」
背筋を正す兄様。
うん、よろしい。
私はお行儀が悪いことを百も承知で、よじ登る。
そう、ヴェルジエット兄様の膝に、だ。
「……! ……!! ……!!」
「はーい、ヴェルジエット兄様じっとしててくださいねえ」
固まる兄様をよそに、パル兄様は呆気にとられていたかと思うと笑ってテーブルの上にあるクッキーを摘まみ、私に向かって差し出した。
「ほらヴィルジニア。あーん」
「あーん」
高さが出てちょうどいいな、これ!
背後で『無理……柔い……壊しそう……』とか呟いてるのが聞こえるけど、知りません。
だって幼女ですから!
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