第25話
さて、最近私には悩みがあるのだ。
父も兄も私のことを『可愛い』と毎度べた褒めをしてくれるし、前世の自分の感性から言うと私も自分のことを『美幼女』と言ってしまえるほどに可愛いと思っている。
自画自賛っていうな。
父は黒髪に金色の目。
長兄は黒髪に赤色の目。
次兄は薄い水色の髪に同系色の目。
パル兄様はオレンジ色の髪に赤の目。
アル兄様は柴犬。目は金茶色。
シアニル兄様は金髪碧眼。
カルカラ兄様は青髪に空色の目。
そう、わが家族はとてもカラフルである。
この世界、色彩がどうのという迫害はないのだが……ない、のだが。
(……美幼女は美幼女だけど、地味だって言われたら確かにそうなんだよなあ)
私の髪は焦げ茶色に、目の色はとても濃い青だ。
間近で見られない限り目の色は黒と思われるのではなかろうか?
「うーん」
どうしてこんなことで悩むようになったかと言えば、私が五歳になって宮殿の中を歩き回るようになったからだ。
と言っても図書館と、兄様たちのお部屋を行き来するくらいね。
それでも幼女の身としてはかなりの運動になるので、高確率で帰りは護衛騎士に抱っこされて帰ることになるんだけど。
で、私には母がいないために後ろ盾が弱いという事実がある。
他の兄様たちに比べて大きく目立った容姿でもなければ、魔力が優れているというわけでもなく、あるのは弱っちい回復能力である。
そのため、地味姫として口さがない人たちに噂されるようになっているのだ。
勿論、父様や兄様がいるところではそんなことはない。
デリアや私付きの護衛騎士たちは可愛い可愛いと持て囃してくれるって言うか心底そう思っているんだと思う。
でも、みんながそうではないのだ。
(……後ろ盾の意味もあって、婚約者を早く見つけろって意味だったのかな)
相変わらずヴェルジエット=ライナス兄様とオルクス=オーランド兄様とは話せていない。
パル兄様が当分話さなくていいって言ってくれてはいるがそれでいいのだろうか。
あれから考えれば考えるほどに、確かにあの場では私を『妹』として甘やかさなかったヴェルジエット=ライナス兄様だが、誰よりも私のことを『皇女』として扱ったのではないかなって思うようになったのだ。
オルクス=オーランド兄様はわからないけど、抱き上げてくれた時のあの手は優しかったし……精霊さんたちは私の味方をしてくれるというけれど、彼らは気まぐれなのでオルクス=オーランド兄様に何かを言われたらそっちにいっこともありえる。
「私に、婚約者かあ……」
「ほう?」
「うん……あのね、私には後ろ盾がないでしょ? ヴェルジエット=ライナス兄様は私の婚約者を誰にするかで争いが起きるって言ってたから」
「……」
シエルは私の言葉に、そっと寄り添ってくれた。
もふっとした羽毛が気持ちいい。
それをそっと撫でながら、私は自分のとりとめもない考えを言葉にしていく。
「決めるために争いが起こる可能性があって、決めればある程度は落ち着くし、私自身を軽く見る人たちもちょっとだけ落ち着くだろうし、婚約者を決めればいろいろ丸く収まるんだよね」
「……ほーう」
「相手が、いい人なら。ううん、ちゃんとお互いを尊重できるような人なら、決めてもらっちゃった方がいいんだよね」
別に婚約者がいたって、家族に甘えることはできる。
皇女として甘えてはいけない部分と、幼女として許される部分をはき違えてはいけない。
「そういう意味で、ヴェルジエット=ライナス兄様は、間違ってなかった」
でもあの時の私はまだ自分が『皇女』の自覚なんてなくて。
ただ妹として兄を前にしたつもりでしかいなかったから、あんな態度を取ってしまった。
ヴェルジエット=ライナス兄様は兄ではなく皇太子として、私に向き合っていた。
それ以上でも、それ以下でもないのだろう。
(兄に、これ以上期待するな)
もう十二分に愛情はもらっているではないか。
私はいつからこんなに欲深くなってしまったのだろう。
(違う、私はヴィルジニア=アリアノット。いつから、じゃない。最初から兄がいて、兄たちの愛をもらっていた)
アル兄様も、パル兄様も。
シアニル兄様も、カルカラ兄様も。
それから父様も。
今はいないけど、母様だって私の誕生を楽しみにしていたと乳母が教えてくれた。
私は、ちゃんと愛されている。
「全員から愛されるなんて思っちゃいけないって、最初のうちはきちんと弁えていたのになあ」
「……ピイ」
「ありがと、シエル」
何に対してなのかはわからないけど、シエルが慰めてくれているのはわかる。
シエルは時々意地悪だけど、でもやっぱり優しいと思う。
事情はわからないけど、追われて辛い目にあってフクロウになってしまって、戻り方もわからないのに……私が辛いときは、こうして寄り添ってくれるのだ。
(言葉が話せるようになったら、もっとシエルの気持ちもわかるのかな)
その優しさに今だけ許してほしいと甘えることにして、私はシエルの羽毛に顔を埋めるのだった。
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