第三章 未来の婚約者に夢を見る
第21話
長兄と次兄に拉致されて『邪魔だからとっとと婚約者を見つけて争いの種になってくれるな』と言われてから数日。
さすがに私も反省している。
中身が前世の記憶に引っ張られているとはいえ、私は五歳なのだ。
そのためどうしても精神的に弱くショックを受けるとすぐに泣いてしまいたくなるし、感情に振り回される傾向にある。
これはいかん。
でもどうやらあの日アル兄様が魔法を教えると約束していた日に無理矢理オルクス=オーランド兄様が割り込んできて、婚約の話だのなんだのをするつもりだったらしいのだ。
それでアル兄様は私にはまだ早いとああいう態度になり、そして私が拉致された場面を見たパル兄様と言い争いになり、結果として泣いて戻った私を三男以降が守ってくれる形に今はなってしまった。
兄妹仲良く計画は、現在ちょっぴり停滞中だ。
(……さすがに、幼女だからってだめだよなあ)
皇女として求められるもの、それは能力は別として他の兄たちと同じだ。
皇太子以外、なんだったら実務に関係している次兄を除いていずれにせよ私たち全員、婿や嫁に行かなくちゃいけないのだ。
その中で後ろ盾もなく皇帝の溺愛を一身に受けている(カルカラ兄様・談)私という存在はヴェルジエット=ライナス兄様が言っていた通り、扱いを間違えれば争いの種になるのだろう。
いいように使いたい人たちが私の身柄を巡って争えば、それが回り回って兄様たちにも危害が及ぶかもしれないし、派閥の争いが激しくなれば巻き込まれる民がいるということだ。
冷静になればちゃんとわかる。
(でもあの時は、そういうのを説明もなしにいきなり『さあ婚約者を決めるぞ!』みたいに言われて、私が邪魔なんだなって思っちゃったんだよなあ)
おそらくそれは前世の記憶が響いているのだと思う。
ここまでトントン拍子に兄たちに受け入れられていたから、なんだかんだ上二人の兄もいけるだろうとタカを括っていたんだと思う。無意識に。
だけどそうじゃなくて、現実からドーンと叩き込まれたもんだから裏切られたような気持ちになって、ああそうかって。
ここでも家族に邪魔者扱いされるのかって勝手に思って暴走してしまった。
あの時のことは謝るべきなのだろうが、勝手に怒りだした幼女としてはとても気まずい。
しかもアル兄様とパル兄様がこんな時ばかり手を取り合って私を守るために協力しちゃって、上二人は私に近づけないのだ。
カルカラ兄様は父にあの二人が私を泣かしたらしいって話をしたみたいだし、シアニル兄様はふらっと現れたかと思うと「あの二人は自業自得。……ヴィルジニアは今日も可愛いね」とかなんかさらりと褒めながらまたどっかに行くってしまった。自由。
「どうしたもんかなあ」
『オルクスのこと怒ってないのお?』
『仕返ししたげるよお?』
「しなくていいよ。……オルクス=オーランド兄様は別に私のこといじめたわけじゃないもの」
ヴェルジエット=ライナス兄様もそうだ。
ただ真実を述べただけだし、それを兄としての甘さ関係なく話してくれただけだ。
私が、追いつけなかっただけで。
いや五歳児だからそういう意味では私の方が正しいんだけどな!?
ちなみにこの小さな女の子たちは精霊なのだそうだ。
オルクス=オーランド兄様の母、第三妃はエルフ族の女性でそのため精霊魔法というものが使えるんだそうだ。
種族的に精霊に好かれやすいそうだが、人間族も好まれれば使える。比率的な問題だ。
で、私はどうやら精霊に好かれやすいらしく、あの日のモヤは『精霊の
説明を受けたがさっぱりわからんのでそういう風に理解した。
「うーん」
とりあえず、婚約者については前向きに考えるべきだ。
ついでにいうとあの日述べた理想については割と正しく理想だ。
アル兄様みたいに優しくてパル兄様みたいに気遣いができてカルカラ兄様みたいに寄り添ってくれる人がいたらパーフェクトじゃないか?
パーフェクトすぎて私が釣り合わないとかそういう問題じゃなくて、理想としてね!
で、仮にそういう人を見つけてきた時に私がただの我が儘小娘ではいけない。
少しでも皇女として知恵と礼儀を身につけて、釣り合える人間にならなくてはならない。
魔法の力が中途半端で、後ろ盾もない以上そのくらいしか方法が見つけられない。
とりあえず私はまだ五歳。
ほかの兄様たちみたいに将来のことを考えるにまだまだ余裕はあるはずだ。
「よーし、頑張ろう! ね、シエル!!」
「ほー」
最近、打ち解けてきたのか私に対するシエルの態度が適当なんだよなあ!
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