第17話
父は私のことを溺愛している。それは間違いない。
兄たちに関しては、カルカラ兄様の発言から
何故
すごく傲慢だからとかそういうことも考えたけど、まあ国のトップだし多少傲慢なのは仕方ないのかなーとも思う。
ただ、父が他の奥さんたちをどう思っているかは今のところ不明。
それとなく探りを入れてみたものの、良い笑顔で『お前が気にすることはない』って言われちゃったしな……あの言い様だと私と妃たちを会わせる気がなさそう。
(うーん)
長男に関してはまあそのうち面会して考えてみればいいか。
それよりも今日はパル=メラ兄様との約束の日だし。
ちなみにカルカラ兄様からパル=メラ兄様とアル兄様の確執について教えてもらった。
第五妃が先に妊娠したこともそうだけど、どうやら息子同士で同じく魔法の才能があったというのも気に食わなかったようだ。
アル兄様は先祖返りの特性が今のところハンデになってはいるけれど、魔力の量も豊富で才能があり、本人の性格から研究職になっているだけでどうやら素養だけならパル=メラ兄様を遙かに超えているようなのだ。
パル=メラ兄様も才能がないわけじゃない、複数の属性の攻撃魔法を使いこなしているわけだしね。
でも、兄様は攻撃魔法にしか適性がないらしい。
『戦乱の世なら、パル=メラ兄上の攻撃魔法は重宝されただろう。皇帝陛下がそうであるようにね。だけど今は平時だからさ。……俺は正直、二人ともすごいと思うから競い会わなくてもいいと思うけど……パル=メラ兄上はそうも言ってられないんだろうなあ』
政治的手腕も、皇帝家の恐ろしいほど強いという火の魔法も受け継いでいる長男がいる。
だからこそパル=メラ兄様の価値で、第二妃は『せめて第五妃の息子には負けるな』と常々苛立ちを覚えているのだとか。
(……子供のどっちが優秀とか、やっぱ気になるのかなあ)
私からしてみれば魔法が使いこなせてるって段階ですごいと思うんだけどね……。
シズエ先生も仰ってたけど、魔力を持つ人はこの世界にたくさんいるけど、強い魔力を有してそれを行使できる人は限られたごく一部なのだという。
だからこそ、そういった人々に権力が集まって国が成立し、その力をもって国を平定し、守り、繋いできているのだと。
だから王家で能力がある人間はそれを使って民のために尽くすものなのだと……まあそんな感じのことを教わったよ。
(ついでに魔力の使い方訓練みたいのを始めたけど、私は散々な結果だったわけで)
それを考えると使えるってだけでスゲー!! ってなるんだけどな。
みんなできて当たり前とか思ってるんだろうか?
王族だからってゼロから勉強だぞ? お?
「来たか」
「お待たせいたしました。改めてご挨拶を、末のヴィルジニア・アリアノットです」
「……パル=メラだ。座れ。……いや、座れるか?」
「座れます!」
失礼な! 椅子にくらい……ちょっとよじ登れば……いや、デリアの視線が痛いな……。
ちらりとデリアを見る。登るのなんて許しませんよという目。
ちらりとパル=メラ兄様を見る。
大きなため息を吐いて、私を持ち上げ座らせてくれた。
「おお……」
「軽いな。食べてるのか?」
「はい!」
「……好きな菓子がわからないから適当に集めておいた。好きなのを食え」
「わああ……!!」
クッキー、ケーキ、プリン、その他盛りだくさん。
ふおお、こんなにいいのか!
「美味いか?」
「美味しい!」
「……そうか。もっと食え」
ふっと目を細めて笑うパル=メラ兄様は、この間の意地悪そうな顔とは違って優しい。
困っていた私を椅子に座らせたり、オヤツをこうして用意したり。
「今日呼んだのは他でもない。お前に言っておくことがあるからだ」
「……なあに?」
ここぞとばかりに子供らしく何もわからない顔で小首を傾げておく。
そんな私に渋面を作ったパル=メラ兄様は、またため息を吐いた。
「……お前が俺たちを通じて母上たちとも接したいことはわかっている。だが、止めておけ。特に俺の母上はだめだ」
「どうして?」
「俺の母上は、隣国出身だ」
第二妃は第五妃や第六妃と違って、友好国から嫁いで来られた姫君。
同じく別の国から嫁いで来た第一妃に次いで強大な国からの輿入れであることから、権力が大きい。
気位が高く、自分が第二妃であることも本当は納得がいっておらず、子を身ごもるのが遅くなったのも自分の息子が他の息子に劣るのも許せないという苛烈な性格の女性なんだとか。
まあ、あくまでそれはパル=メラ兄様から見てのことだけど。
「お前のことも、どう思っているかわかったもんじゃない。それに……誰かの母親にだけ気に入られても厄介だろ」
「……」
「
「……パル=メラ兄様、優しいのに、どうして」
今、アル兄様のことを第一の名前で呼んだ。
それは、パル=メラ兄様はアル兄様のことを『家族として認めている』ことに他ならない。
アル兄様を前にした時は『ケモノ』って呼んでたのに、あれはわざとなんだ。
「お前は馬鹿じゃなさそうだからな。カルカラよりはもう少し上手く立ち回れるだろ。……俺は無理だ。隣国の目もあるし、実際攻撃魔法しか才能がねえ」
「そんな!」
「母上がお前に目をつければ、俺を皇帝に押し上げるために隣国を通じてお前をどっかの国に売り飛ばすくらいしかねない。いくら父上の権力が強かろうと、他国の皇女だった母上を軽んじることもできないからな」
「……」
私が立ち回りを失敗すると争いの火種にもなるわけか。
ええー、ややこしい……。
私はただ兄たちに甘やかされてキャッキャウフフした後に割と穏やかな伴侶をあてがってもらって平凡ながらに幸せな家庭を築きたいんですけど!?
「……パル=メラ兄様は、また遊んでくれる?」
「……暇だったらな」
「ヴィルジニアって呼んでくれる?」
「……いいぞ」
私は椅子から降りて、パル=メラ兄様の前に立つ。
そして手を伸ばした。
片手で頬杖をついたまま、兄様は私を見下ろした。
淡い緑の目は、優しく私を見ていた。
きっとパル=メラ兄様は私を拒絶しない。確信があった。
「抱っこ」
「……仕方ねえなあ」
この人は、わざと悪い人を演じている。
お姉ちゃんと、一緒だ。やり方がとっても下手で伝わらない。
「俺のことは二人の時だけ、パルって呼んでいい」
「パル兄様」
「……公式の場や外じゃ気をつけろよ。特にカルカラは腹芸ができるタチじゃねえから、あいつには話すな。全部顔に出て台無しだ」
「うん」
「他の兄貴たちはお前に直接関わってこないだろうし、シアニルには会ったな? アイツは言っても聞きゃしないが、カルカラよりは頭が回る。上手くやるだろ」
「……う、うん」
「兄貴たちに会う分には何も気負うな。だが、兄貴たちの近くには妃たちの目があると思って行動しろ。いいな?」
粗暴で厄介な兄とばかり思っていたけど。
うん、うん、これは……。
「パル兄様、お世話焼きさん……」
「あア!?」
すごまれてももう怖くなんてないよ。
抱っこしながら口元にクッキー持って来てくれる状況なんだからね!
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