第15話
そしてカルカラ=ゼノン兄様とのお約束の日。
お庭でお茶をしようと約束をしたそこで、私はお兄様を待っていた。
「……おかしいわ、デリア。時間を間違えちゃったかなあ?」
「いいえ、確かにこの時間でお約束を……」
「もしや……すっぽかされた……?」
「そ、そんなことは……ない、はず、ですが……」
段々とデリアの声が小さくなっていく。
そう、約束の時間はとうに過ぎているのだ。
でも一向に現れないカルカラ=ゼノン兄様。
お茶はすっかり冷え切ってしまった。
(……そっか、カルカラ=ゼノン兄様は私のことが嫌いかもしれないと)
心の中でメモを取る。
ショックかどうかと言われれば、まあ、少しだけ。
でも傷ついたかと問われればそれはない。
アル兄様のように受け入れてくれるかもという期待があったが、パル=メラ兄様のように他の弟妹に対して態度があまりよくない人だっているのだ。
いつかは打ち解けられるかも知れないが、初日から上手く行くことの方がレアだと思っておけばいいだろう。
まあ呼び出しておいてすっぽかすのはどうかと思うけど。
「……デリア、もうちょっとだけ待つからお茶のおかわりを。サールス、悪いけどカルカラ=ゼノン兄様の侍女か誰かに声をかけてもらってもいい? もし来られないのであれば、日を改めるって」
「……承知いたしました」
なんか今にも唸り声が聞こえそうな感じのサールスに苦笑する。
私のことを案じてくれているのだろうけど、美形がそんな顔をしちゃだめだ……。
けれどサールスが私の指示を受けてその場から動こうとした瞬間、ピタリと足を止める。
どうしたのかと彼を見上げると、少し眉を寄せてから「……来られたようです」と絞り出すように口にした。
(……来たならいいことじゃないの?)
でもサールスの反応は微妙だ。
どうしたことだろうかと私が小首を傾げていると、その人はやってきた。
いいや、その人
「……遅れて……すまない……。どうしても、どうやっても! シアニル兄上を撒けなくて……」
クッと悔しそうにする青髪の少年。どうやら彼がカルカラ=ゼノン兄様のようだ。
そんな彼の肩を抱くようにして微笑む金髪の少年。こちらがシアニル=ハーフィズ兄様らしい。
私は目を瞬かせて二人を見た後、椅子から降りてちょこんと淑女の礼をとった。
こういう時は目下の私から挨拶すべきよね!
「お初にお目にかかります、兄様方。末のヴィルジニア=アリアノットです」
「うん。俺が第六皇子、カルカラ=ゼノンだよ。カルカラと呼んでくれたら嬉しい」
ニコッと笑うその姿はスポーツ系の爽やか男子だ。眩しい。
私の手を取って「遅れて本当にごめん……」ってしょげる姿を見ると、喜怒哀楽の表現がはっきりしている人っぽい。
まあそれが本性かどうかはわからないけど。
「ぼくはシアニル=ハーフィズ」
カルカラ兄様を押しのけるようにして私の前に立ったシアニル=ハーフィズ兄様は、ジッと私を見下ろした。
金髪碧眼の美少年だが、その表情は乏しくてどういう感情で私を見ているのかさっぱりわからない。
「え、ええと……?」
「シアニル兄上、ヴィルジニアが怖がるから……!」
慌ててカルカラ兄様が止めに入ってくれるけどナチュラルに第一の名前を呼んでますね?
いやいいんだけどね、ダメとは言わないけどそれって一応お互いに確認を取ってからが望ましいって私はシズエ先生に言われてるんだけどな?
カルカラ兄様は距離が近いタイプの男子なのかな!
そんなことを思う私をよそに、シアニル=ハーフィズ兄様が手を伸ばしたかと思うと私の両頬に手を添え、もちもちとし始めたではないか。
「ふぇ」
「っあー……もちもち。すごい。モチモチ」
いや? うん? まあ?
幼児と言えば確かにモチモチすべすべでございますがね?
ひたすらモチモチされるこちら側としては唐突なことに虚無ですよ、虚無。
美少年に無表情にモチモチされる気持ちを考えろ。
「うん」
そして満足したのか、シアニル=ハーフィズ兄様は私のことを次は抱き上げたかと思うと頭を撫でて、カルカラ兄様に渡した。
なんだこの人、自由すぎないか? アル兄様が『自由人』って言ってたがよくわかったよ。
「シアニルって呼んで。それじゃあ、ぼくは行くよ。おかげで良い絵が描けそう。またね」
「え? は、はい。また」
本当に自由人だな!?
でも第一の名前で呼んでいいって許しをくれたんだから、好印象を持った……ってことで、いいのかな?
いいんだよね!?
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