第二章 至急! 兄たちを籠絡せよ!!
第11話
さて、洗礼も終えた私はアル・ニア兄様に面会する日を迎えた。
デリアやシズエ先生にも事前リサーチしたところ、父が言っていたように優しいお人柄のようだ。
ただ、容姿が……と言葉を濁されていたことが気になり、騎士たちにも確認してみた。
彼らからも性格についてはお墨付きの穏やかさと言われたので、本当に穏やかな人なのだと思う。
ちなみに容姿の件だが、ロッシがこっそり教えてくれた。
なんでも第五妃様は帝国の属国である獣人の国出身。犬耳の美女だそうだ。
で、ここで問題が。
獣人は私の護衛騎士たちのように人族のような容姿に耳と尻尾が出ているのがスタンダードだそうだけれど、稀に先祖返りで獣が前面に出ている姿で生まれることもあるのだとか。要するに頭が獣で全身も割と毛深い、姿勢は人って感じらしい。
「だからみんな怖がっちゃってねえ。特に第五妃様は生んですぐ拒絶しちゃったらしくて……姫様も怖がらないであげて? とてもいい人だからさ」
「そっか、ありがとうロッシ」
なるほど、このファンタジー世界でも獣性が表面に出過ぎたら差別対象っぽくなるのか?
それって獣人族の方々からしたら難しい問題だな、そもそも先祖返りでもって生まれた容姿なんぞどうしようもできないわけで……。
しかし実兄がそんなにもみんなが恐れるような容姿をしているのかと思うと、幼女らしく怯えた方がいいのかどうなのか。
いやだめだ仲良くなるって決めたんだからファッション怯えは良くない。
アル・ニア兄様は普段魔法の研究をしているとのことで、私から出向く旨はすでに伝えてある。
これも兄様が容姿で周囲に怯えられているなら、結構距離のある私の部屋まで来るのも苦痛かなと思ってのことだ。
まだ会ったことはないが、そのくらいの配慮くらい幼女でもできるもんね!
ってことでデリアとロッシを連れて私はアル・ニア兄様が待つお部屋へと向かった。
「それでは、姫……ええと」
「うん、いいよ。みんな下がってて」
人柄はいいけど見た目が、という難点を持つゆえに第五妃にも拒絶されているアル・ニア兄様のところは、侍女も侍従も私と同じくらい少ないらしい。
本人の意向もあるけど、志願者がいないみたいでね……ここにいる人たちも、そっとアル・ニア兄様から目を逸らすか俯くかだもんね。
ちょっとそれ失礼じゃなぁーい?
ちなみにそのアル・ニア兄様だがなんか被ってらっしゃる。
紙袋……とまでは言わないが似たような形状の、ちょっと質の良い布でできている……?
いやでもなんかもはやあれは箱では……?
(耳と、鼻……かな? それをカバーするためになのか……? アレの方が逆に恐ろしいのでは……?)
ホラー映画に出てきそうな感じになってますけど?
ちなみにお体の方は魔法使いって感じでローブ系の服をお召しです。
「お初にお目にかかります、アル・ニアお兄様。私が第七皇女のヴィルジニア・アリアノットです! 今日はお時間をくださりありがとうございます」
「……第四皇子、アル・ニアです。よく来てくれたね、歓迎するよ。その、女の子が喜びそうなものがわからなくて、適当に用意させてもらったんだけど……ごめんね、気が利かなくて」
「いえ! 兄様がお時間をくれただけで嬉しいです!」
「そ、そう?」
お声は……うん、箱がだね、邪魔だな。
くぐもってなんか聞こえづらい!
でもなんか優しそうな声である。
あっ、ちょっと尻尾が揺れてるのが見えたぞ!!
ってことは私が来て喜んでる……? 私が嬉しいって言ったからか……?
だとしたら私の兄、可愛すぎでは……?
私はアル・ニア兄様の傍まで歩み寄り、見上げる。
うん、箱が邪魔で顔は見えない。
「兄様!」
「う、うん」
「抱っこしてください!」
「え、ええ!?」
唐突に思われただろうか。
いやでもこれはロッシと事前に計画していたことなのだ。
アル・ニア兄様はその容姿のせいもあるが、性格も穏やかで控えめ。
侍女や侍従も自分のようなものに付き従わせては申し訳ない、母親に対しても自分のような者が生まれたために心を痛めさせてしまったと考えるようになってしまったそうだ。
魔法使い職を選んだのも素養があったのは勿論のこと、魔法使いで研究職ならば閉じこもっていても働けて国のために尽くせるから、誰の迷惑にもならないだろうっていう気遣いが行き過ぎた結果だ。
そういう性格の人なら、妹が寄ってきたらどうする?
距離を置くだろう。
とりあえず当たり障りない会話をして、次の兄を紹介して自分とは距離を取らせるよう考えるに違いない。
寂しいとかそういう自分の気持ちは、置いて。
だからここは幼女ならではの我が儘が最も効果的なのだ。
「抱っこ!」
「え、ええとね、あの、アリアノット」
「ヴィルジニアですわ、兄様」
「……でも、僕は」
戸惑いを隠せない兄様に、私は意を決して抱きついてみた。
ぎくりと体が強張ったのを、感じる。
五歳の私が抱きついたんじゃ、十八歳のアル・ニア兄様の足にしがみついただけでしかないんだけど。
「私、兄様にずっと会いたかったんです」
「……アリアノッ……ヴィ、ヴィルジニア……」
「ずっと、会いたかったんです」
言葉にしたら、なんだか涙腺が刺激されて。
なんだろう。
ちょっと涙が出そうで。
私はぎゅうっと、アル・ニア兄様のローブに顔を押し付けてコッソリ涙を拭いたのだった。
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次回、お昼の12時更新
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