第12話
親や家族に見向きもされないことに慣れていた。
でもそれは、前世の話だ。
今世は、父に愛されている。でもそれはペットみたいなものなのだろうか。
私の前に立つ兄は、私と同じで母の温もりを知らない。
私は死別で、兄は拒絶だけど。
優しい人だと思う。
皇子という立場があったから先祖返りでも安穏と暮らせているのだろうけれど、周囲の人の目は正直だ。
上辺だけ取り繕っても、どこか怖がっているのがわかる。
ロッシも、そうだ。
それでも心配していたから、きっと兄は『いい人』なのだ。
今世では愛されたい。
愛玩的な娘ではなく、ヴィルジニア=アリアノットという個人を、見てもらいたい。
でもどうしたらいいのかわからない。
この気持ちの伝え方を、私は知らない。
こんな時、幼児の体と精神が悪い方向に作用する。
一度ぐずってしまった心は、涙を流して悲しみを伝える。止められない。
「ヴィルジニア」
「ごめ、ごめんなさいぃ……」
「ううん。僕が……僕が悪いんだよ、ごめんねヴィルジニア。勇気を出してくれたのにね」
すっと兄様が私の前に膝をつき、そして躊躇いがちに私を抱き上げてくれた。
そして椅子に座って、私を膝に乗せて頭を撫でてくれるではないか。
手袋越しでもわかる温りと、そしてたどたどしいながらに優しい手つき。
「アル=ニア兄様ア……」
「うん。アルでいいよ。ヴィルジニア」
「ごめんなさいぃぃ」
「いいんだよ。これまで、寂しかったんだよね。気づいてあげられなくてごめんね」
情けないことにその優しい声と、撫でてくれるその感触に涙は止まらない。
まだ会って挨拶をしただけの兄妹関係だというのに、なんという神対応。
アル兄様の好感度が爆上がりした瞬間であった。
そうしてアル兄様の膝の上でひとしきり泣いて、お茶菓子のクッキーを食べさせてもらったりなんかもした。
うん、すごくいい感じである。
「アル兄様は魔法使いなんですよね。どんなことができるの?」
「僕はね、攻撃とかにあまり使いたくなくて……地味だけれど、人々の生活に役立つものがいいなと思って。魔力は人によって持っている量が違うのは聞いた?」
「はい、勉強しました!」
「お利口さんだね。僕は魔力を使って動く道具で、人々の補助ができないか考えているんだ。小さな魔力で重いものが運べたりすれば……山崩れとかで岩をどけるのにも役立つだろう? そういったものだよ」
「すごい! できるの!?」
「まだいろいろと研究の最中だけどね。あとは水脈を探す魔道具とかを作っていたり……」
なんということだ、超有能ではないか。
確かに初代国王や父のように強大な火の魔法で以て外敵を打ち破ることはとても派手派手しくて良いパフォーマンスになる上、敵にも恐れられるだろう。
だがアル兄様のやっていることは平和な世界にこそ必要な、民のためのものだ。
みんなに邪険にされても誰かのためにと頑張る兄様はとても素敵じゃないか。
「アル兄様、ヴィルジニアももっとお勉強していつかお兄様の手伝いをするわ!」
「ふふ、ありがとうヴィルジニア」
「そういえばもう一人、魔法使いのお兄様がいらっしゃるのよね」
第二妃の息子で第三皇子である、パル=メラ兄様。
アル兄様と同い年だけど、パル=メラ兄様の方が一ヶ月ほど早く生まれたのでそういう序列なのだそうだ。
「……パル=メラは攻撃魔法が得意で、活発だよ。あまり僕とは仲が良くないけれど、どうかヴィルジニアは仲良くしてあげてね」
「兄様?」
寂しそうな声。
困っているようなそれは、仲が良くない……と言っても多分それは一方的にアル兄様が嫌われているってやつなのだろうなと思った。
なんと答えるべきかと思っていると、バァンという大きな音がして誰かが侵入してきたではないか。
咄嗟にロッシが私たちとその侵入者の間に立ちはだかってくれたけど、それ以上動かない。
「末っ子がケモノのところに来ているって見に来てやったら邪魔するからだ」
派手に開いたのは、ドアの外で警護に就いていたアル兄様の護衛騎士が投げ込まれたからだったらしい。
ギョッとする私を守るようにアル兄様が抱きしめてくれたから良かったものの、体が震えてしまった。
「
「い、もうと」
「おう、そうだ。俺がお前の兄、第三皇子、第二妃の息子パル=メラだ」
ずんずんと大股で歩み寄るパル=メラ兄様。
僅かに、アル兄様の手が震えた。
「今日は私と、アル兄様の面談です。お父様にもお許しをいただいています」
「へえ、そうかよ」
私がアル兄様の名前を呼んだのが気に入らないのか、それとも言い返すような言い方をしたことが気に入らないのか、あるいは両方か。
でも嫌な感じがしたのだ。
「これを見ても言うのか?」
「えっ」
「あっ!」
ゴウッと音がして、私の髪が舞い上がる。
室内にいるのに突風が吹いたのだ。
私の髪を揺らし、そして――アル兄様の顔を隠していた箱を、吹き飛ばす風が。
「あ、あ……ヴィルジニア、見ないで……!!」
「あはははは! 見ろよ、ケモノだろう? こいつが兄? 笑わせんなよ!!」
そこには、確かに獣の頭部があった。
私はそっと手を伸ばす。
モフッとした感触。
つぶらな瞳。
「アル兄様、かわいい」
「は?」
「え?」
「可愛い! モフモフだあ!」
そう……アル兄様のお顔は、とても整った柴犬のそれだったのだ!!
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次は18時更新です
あと途中から気づいたんですが、兄たちの名前も主人公の名前も二つを繋ぐのに「・」使ってましたが本来は「=」でした(最初の方はちゃんとしてた)
でももう直すの大変だからここからちゃんと『=』使って行きます……もうそっと許して……(更新の方がんばるから……)
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