第8話
さて、シエルがいてくれるおかげで私の人生の目標の一つが叶ったわけだけど……残りについてが問題だ。
恋愛にかんしてはまあ、父が連れてくるであろう婚約者とやらとどれだけ利害関係だけじゃなくて気持ちを通い合わせることができるかって話になるんだろうけど……。
(私は恋愛経験がなかったからなあ)
中学を卒業と同時に家を出ることばかり考えて、その計画を主に練って過ごした前世の幼少時代、ウェブで読める無料のラノベやそういった類いで夢を見ていたことは確かだ。
だからといって物語にあるようなことができるわけじゃない。
私は転生者だし、皇女様だけど……これまで読んできたヒロインたちみたいな要素はないのだ。
なんも知らない世界だから、これから起きる出来事なんて知らないし。
知識チート的なのもなければ、中卒ブルーカラーゆえに特技は立ちっぱなし作業である。
皇女としてそんな特技どこで生かせと。
そして魔法のある世界だけど、今のところチートっぽい現象はひとっつもない。
今のところ魔法の勉強はもっと年齢が上がってから検査をした上で適正なものを……って感じらしいので、慌ててはいけないようだ。
一応念のため、お約束として一人きりの時に思い出せる限りの魔法のイメージと名称を唱えてみて何も起きなかった。
シエルには残念なものを見る目を向けられた。
心が辛かった。
まあ結論として前世でもおばちゃんたちが言っていたように、まずは堅実に地盤を固め、そこから資格を取るなり自分に向いてそうなものを探すのが一番だろう。
シズエ先生とのやりとりはおそらく、私が成長してきちんとした教育を受ける際に学ぶことが嫌にならないよう、少しずつ座っていられる訓練……みたいな?
でもまあ、私は大人しい幼女なので苦労はさせていないはずだ!
父の溺愛具合でちょびっとだけ周囲が振り回されているらしいんだけどね。
「ニア」
「お父様」
「今日はお前のために選りすぐりの果実を持ってこさせたぞ」
「……あ、ありがとうございます……」
そう、溺愛してくれるのは嬉しいんだけどね。
その方向性っていうか、何事も振り切ってるっていうか。
(お姉ちゃん、こういう気持ちだったのかなあ……)
今日は果物だがこれだっておそらくどこかの果樹園か山か、とにかくそれを買い占めてその中から選りすぐったものだけを持って来たのだろう。
私が食べなかったら処分の上、その果樹園や山、下手したら持ち主に対して『娘が食べなかったのはこの果実がまずいからだ!』と言いかねない。というか言いかけたらしい。
ちなみに前回はビスクドールだった。
私に可愛いお人形を与えたかったらしいが、精巧なドールは嬉しいが等身大は怖いって。
思わず怯えたら人形師を呼びつけて怒鳴るもんだから震えたよね。
最終的に『お父様が怖い』って言ったらショックを受けて戻り、人形師はお咎めがなかった。良かった。
「お父様も一緒に食べる?」
「ああ、そうしようか」
私の言葉に父のお付きの人たちがホッと胸をなで下ろしているのが見えた。
みなさんご苦労様です……。
うちの父が大変申し訳ございません……。
「ねえお父様」
「なんだいニア」
ちないに〝ニア〟は私の第一の名前、ヴィルジニアからとっての愛称で今のところ父しか呼べない愛称である。
兄たちとも親しくなったら呼んでもらえるかなと期待しているんだが、現状この溺愛ッぷりを考えると兄たちにも迷惑がかかりそうなので諦めるべきか。ぐぬ。
「私、五歳になったら兄様たちに会えるの?」
「なんだ、やつらに会いたいのか?」
「うん! ほかのお母様たち? にも会ってみたい」
「ふむ……」
父は少し考えてからチラリとシエルを見る。
シエルはその視線に気づいてビビって部屋の隅で細くなっていた。
小心なフクロウだからあまり怯えさせないでほしい。
羽が抜けたらどうするのだ、父よ。シエルは繊細なんだよ!!
「ニアは動物が好きなのだな?」
「はい、好きです」
「ならば、アル・ニアがちょうどいいだろう。あれは気が優しく魔法使いと言っても人を傷つける魔法は使わんし、お前も気に入るはずだ」
「アル・ニア兄様」
なんか父の言い方が『あれ』なことに引っかかったけど、今は目を瞑ろう。
アル・ニアと言えば第五妃が生んだ皇子で十八歳か。扱いは四男だけど、三男とは同い年。
父が言うくらいだから、穏やかな人なのだろう。
どんな人なのかなあ。
五歳になるのが、楽しみになってきた!
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