第7話

 シエルは二人になると私に寄り添ってくれることが多くなった。

 モフモフ最高。

 そして私の一方的なお喋りに付き合ってくれる良き相棒でもある。


 私は幼女なので基本的に一人にされることはないのだが、それでもやっぱり一人の時間ってほしいじゃない?

 本来なら親と過ごす時期だし、シズエ先生の発言を考えるに五歳までは親子での蜜月的な感じで過ごすんだと思う。


 いやまさか……暗殺とか物騒なことがあるとかないよね?

 幼児の死亡率が高い世界とかそんな恐ろしいこと言わないよね!?

 すこぶる健康体ですけども!!


 まあ何が言いたいかっていうとだね、侍女たちが下がったり一人になりたいと思ってもこう、寂しいんだよね。

 とはいえ、私はおそらく普通の幼児に比べれば格段に扱いやすい子供だと思う。

 前世の記憶があるから大人びているってのもそうだし、私自身が前世で親に育てられた記憶がないから、だ。


「……シエル、寂しい?」


「ぴい?」


「そこはホーウでいこう」


「ほーう」


「野太い」


 どうした。可愛い路線を行くんじゃないのか。

 キャラがブレブレだぞシエル! 知らないけど。


「……お兄様たちは私のことどう思ってるのかなあ」


「ホーウ」


「嫌われてたらどうしよう」


「……ホーウ」


「お兄様のお母様たちも、私のことどう思ってるんだろう」


「……ホ、ホーウ……」


 シエルが困ったように弱々しく泣いて私に擦り寄ってくれた。

 その温もりが、とても優しい。ふわふわモフモフだ。


 私の前世で母親と言えば、ヒステリックに騒ぐ人だった。

 見た目がなにより重要で着飾ることも好きで家事も何もやらない人で、美人だった姉のことをとても可愛がっていた。

 私はあまり……そういう意味では、平凡だったから家事を押し付けられていた。


 世の中の『良いお母さん』ってものは、私にとって友人の〝お母さん〟だったり物語に出てくるような〝お母さん〟だ。

 果たしてこの異世界で、六人もの義母ってのはどんなもんなんだろうか。


「想像できないなあ」


 厄介そうなら逃げるのはアリだ。

 ただ前世と違って、皇女という立場があるしまだまだ幼女。

 簡単に家出をするわけにもいかない。

 ましてや、今のところなんの教育も受けてないで飛び出して、外には怖い魔獣もいるってグノーシスにも言われていることを考えるとペロリといかれてしまうかもしれない。


「……シエル、あのねえ」


「ホーウ?」


「私ね、お兄様たちと仲良くなれたらいいなあって思ってるんだよ。それでね、いつかね……私にも王子様が現れたらいいな」


 ぽつりぽつりと、シエルにだけ零す本音。

 恋愛がしたいなって、前世でも思ったんだ。

 姉はいつだって私の家族でお姫さまだった。私は背景みたいなもの。


 童話みたいにお姫様には王子様が来てくれるなら、私のところにもいつか幸せにしてくれる王子様が現れてくれることを夢見たっていいじゃないか。

 実際、皇女ですし。


「まあ世の中そんな甘くないよねー!」


 現実問題で考えれば皇族で唯一の女なんて嫁ぐしかなかろう。

 ラノベを散々読んできた私にはわかっている。

 政略結婚、もしくは父が決めた婚約者をあてがわれて気に入らないなら変えるよみたいなパターンでしょ?

 恋をするっていうより、用意された相手と気持ちを育む以外選択肢ない感じでしょ?


(まあ、それもありか……)


 思わず遠い目をする私を、シエルが呆れた目で見ていた。

 こう、可愛くねえと言わんばかりな雰囲気だ。


 失礼な! 現実的なんだよ!!

 幼女ですけどね!!


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次は22時更新です

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