完成したもの

尾手メシ

第1話

 7は幸運の数字である。

 7が実際に幸福をもたらすのかは分からないが、ラッキーセブンの言葉が周知のものであるように、それは当然のこととして受け入れられている。

 ただ、これは大変な誤りだ。7が幸運の数字であるのは、7が完成を表しているからだというのだが、これは西洋の神の言い分である。東洋にある者にはなんの関係もない。よしんば西洋の神の言が真実であっても、完成とは滅びへと向かう転換点であり、まったくありがたくなどない。

 東洋にある者にとって7とは不幸のきざはしであって、避けるべき悪の鎌である。


 井口がそのバスに乗ったのはたまたまだった。たまたま出掛ける用事ができ、たまたま来たバスに乗っただけだ。

 開いた横腹からバスに乗り込むと、すでにいくつかの席が埋まっている。前方の一人掛けに三人、後方の二人掛けに二人。最後尾には誰もいなかった。

 普段、井口はバスになど乗らないため、咄嗟にどこに座るかの判断がつかない。入口でまごついていると、バックミラー越しに運転手と目が合った気がした。その視線に、どこか自分が場違いであるような気にさせられて、視線から追いやられるように、井口は後方の席へと向かった。

 井口が席についたことを確認すると、運転手はアナウンスを入れてバスを発進させる。

 流れる車窓から見慣れない風景を眺めていると、バス停を二つ越える頃には、井口はすっかりと落ち着きを取り戻し、何の気なしに車内を見た。

 前方に四人、斜め前に夫婦らしき二人組。その時ふいに、二人組の間に小さい頭が現れた。どうやら小さい子を抱いていたようだ。つまりは乗客は七人。

 7は完成された数字だ、ということが、唐突に井口の頭に浮かぶ。自分の人生は完成したのだ、という思いが、すとんと胸の奥に落ちた。完成したものは不滅を失い、滅びへと向かっていくことは道理である。

 甲高い鳴き声のような音がして、バスが大きく揺れた。

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完成したもの 尾手メシ @otame

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