第2話 上書きの遺書
うす暗い部屋の中、カタカタとタイピング音が響く。
時刻は午前2時14分。パソコンのブルーライトだけがこの部屋の唯一の明かりだ。
僕は7年前に書いた遺書に上書きしようとしていたのだが、昨日保存するのをうっかり忘れてしまい、どうするか迷った挙句、結局7年前のものとは別のドキュメントに書くことにした。
紙には書くつもりなんてなかった。僕はあまり字を書くことが好きじゃないし何より紙に書くと素直に書くことが苦手だった。
そして、もう一つの理由は、別にこれを読んでくれる誰かがいるとも思って無いから。
……でも、もし、あの時の君の言葉が本当なら、君にだけには届いて欲しい。
これは、僕の最後の手紙になるでしょう。
一旦手を止めて、ふと顔を上げる。どうしようもないくらい胸が苦しくなり、シャツの胸あたりをグッと左手で握る。手にかいた汗がじんわりとシャツに染み込んでいく。そして、右手でベランダの窓を少し開けた。冬の冷たい風がすうっと部屋に入ってくる。外は星一つない真っ暗な夜だった。風に吹かれて木々はカサカサと枝揺らしている。
机の上に置いてある水を一杯飲んでふうっと深く息を吐いた。
「…さ、書くか。」
僕は椅子に座りなおしパソコンで続きを打ち始めた。
今君がこの手紙を読んでいる頃、僕はもちろんこの世にいないだろう。
そもそも君の存在自体が僕はもしかしたらゆめか幻を見たんじゃないかなとも思っている。でも、これだけは信じていたかったから。だから書いておきます。
もし、本当に16、7年後の君にこの手紙が届いているなら、あの時、僕を助けてくれてありがとう。…君にはどうしても伝えたいことがあるんだ。
少し昔の話から始めようか、君と初めて会ったあの日、僕は8歳の誕生日を迎えた頃だった。しかし、僕の誕生日はその日以降、祝われることはなかった。
誕生日の前日父が突然亡くなり、僕の誕生日の日はお葬式に変わってしまった。
あの日のことは今でもまるで昨日のことのように鮮明に覚えいる。
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