第8話 トラウマが与える僕への痛み

誰かがやらなければいけない仕事。

そして、誰でもやれると思われている仕事。

そんな仕事に僕は新卒で就いた。

僕の周りの先輩は僕よりも速く動く。

僕がモタモタすればそれに苛立つ。

だんだん僕は僕という存在を否定されたのに気づいたのはもっと後だった。

僕にはパワハラの他にトラウマがもうひとつある。

生々しい話になってしまうが、その時はそのことが介護では普通のことだと、分からなかった。

検索すると出てくるそれは陰部洗浄というやつらしい。

僕は特浴と言って、身体が動かない方の身体を洗う中でそれを先輩から教わりながら、やるということをしなければいけない現状になった。

僕に助けてくれる人はいない。

それをやらなければ終わらないから僕はそれをした。

僕は終わった後にその事を先輩に吐露すると、先輩は『俺もキツイから分かるよ。でも、お前だけじゃない』って言ってた。

だけど、だけど僕の手には触った感覚が残り続けているんだ。

あの感覚が。

逃げられなくて、誰も僕に同情なんてしない。

やるまで逃げられない。

僕はこの仕事の辛さを誰にも相談出来なかった。

それが、介護では普通の仕事だとしてもだ。

やっと、このことを話したのは休職して退職してから母に話した時だけだった。

僕はずっと誰にも話せないままだ。

でも、今やっと文章で文字化した。

僕は生きててもいいのかな。

今まで書いて来た話も全て僕から見た僕にあった本当の話しだ。

嘘も偽りもなく話している。

介護職がどんなに辛かろうが続けていたのは、色んな利用者さんの話を聞くのが嬉しかったからだ。

僕の人生は始まりを告げているはずなのに、働いている時は終わりを告げている気がした。

主治医にこのトラウマを話すべきなのかな。

誰も僕のトラウマを知らない方が幸せだったかな。

僕はもう強くもないし、笑いたくても笑えない。

このトラウマを文字化するだけで少し泣いてしまった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る