第3話 3月からバイトとして入った。
僕は内定が決まって、初めて踊り帰るその前にウズノ老人ホームの施設長である島田さんとの面談があった。
そこで、僕はバイトをした事がないことを話した。
すると島田さんは言った。
『じゃあさ、社員になるのは4月からだけどバイトとして3月からやらない?』
僕は何も考えずにやりたいと思い言った。
『やります』
すると島田さんは笑顔で言った。
『じゃあ、メールで都合がいい日を連絡してくれる?ちなみに働く時間は週3日で7時間だから。宜しくね』
『はい、わかりました。メールします』
その日は制服の採寸に使う靴は白い靴を持ってくるようにと伝えられた。
その日覚えてるのはこれでNNT卒業だ。
晴れて社会人になれるそれだけだった。
そして3月1日にバイトとしてウズノ老人ホームで働くことになった。
最初の1日は研修日で各フロアを案内されたのを覚えている。
案内してくれた野々江さんは各フロアを統括するリーダーさんだった。
優しい人だけど常に目は笑っていないのを思い出した。
それから僕が最初に覚えたのは挨拶だったと思う。
人が通ったら必ず挨拶をする。
それがルールであり、マナーだと教えてもらった。
それから、自分が1番年下だったから他の介護士さんに気に入ってもらうには挨拶と愛想良く、そして名前を覚えることだと先輩から教わったことだった。
必ず従業員の通用口の下駄箱で人にあったら挨拶して、それから施設長や事務長やケアマネジャーのいる部屋に挨拶する。
そして、最後に自分の担当するフロアの部屋の中に人がいたら挨拶をする。
それが、勤め始めてから休職するまでの日課だった。
3月はとりあえず1階から2階にかけての担当フロアにいる利用者の方の名前と顔の一致と他の先輩の名前を覚えることから始めた。
3月が初めてのことばかりすぎて覚えることの方が大きくて、メモを取るより頭でメモした方が早かった。
頭でメモしたものを家に帰って清書するっていうのを繰り返してた。
何をやるにしても記憶に残るようなことばかりで、頭のメモは色んなことを覚えてるようだった。
3月時点で教わったのは、食事介助に朝は湯呑みとエプロンをしている人のエプロンを洗うことだった。
3月の時点で誰が自分にとって有害で誰が自分のことをどう思ってるなんて分からなかった。
ただ無性に苦しいことだけはあったと思う。
職場で泣いたのは3月の1回だけだったと思う。
それが100歳の利用者の方へのとろみ入りの麦茶を飲んでもらうっていう初めて自分に科せられた課題だった。
先輩職員さんは言った。
『あなたならやれるよ。出来るんだら。ググってやればいいんだから』
そう言われても僕は100歳の利用者さんに無理強いは出来なかった。
だって、言葉は発さずともお茶を飲みましょうかと声をかけて、お茶を飲まそうとしても利用者さんは要らないと身振り手振りで言うものだから。
そんな時に限って先輩職員は急かしてやってくる。
僕は利用者さんにお茶を飲ませられないことを叱責される。
僕はいっぱいいっぱいになって泣いてしまった。
周りは僕には声をかけては来ない。
その後、僕は誰に聞いたかわからないが先輩職員から言われた。
『初めてのバイトだとは思わなかったわ。泣かせてしまってごめんなさい。これ飲んでね』
そう言って手渡されたのが、ポカリだった。
僕は涙をハンカチで拭きながら、利用者さんたちと一緒にポカリをゴクッと飲み干した。
3月の思い出はそれくらいだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます