第5話 八木

「それで、猿川に見つからないようにセブンでパンと缶コーヒーを買って、映研の部室に向かったんだ」福呂はまだまだ話し続ける。オレに会った事で7がコンプリートって謎のアンサーはいつ聞けるんだ?そう思いながらも、久しぶりに会ったノート神の話に耳を傾けようと、オレは問いかける。「映研?」と。

「まぁ、オレも幽霊部員みたいなものなんだが、ほとんど活動実態のないうちの映画研究会の部室は、昼寝するのにちょうどいいんだよ」

「はぁ。そんなものか」オレは中に入った事のない、うちの大学で最も近代化が遅れている部室棟の外観を思い浮かべる。


「今日のオレの二コマ目は空き時間だったからな。ひと眠りしようと行った訳だ。そうしたら、部室の中から何やらアンアン喘ぐ女の声がする」

「午前中からアダルトビデオでも部員が見てたってのか?大した映画研究会だな」

「そう思うよな。オレもそう思ったけど、徹マン明けだし、横になれたら寝れるやと思ってドアを開けたんだ。すると、アダルトビデオどころの話じゃない。リアルに男女が真っ最中だったのさ」

「マジかよ。そんなことある?」

「部室に入って来たオレにビックリして、すぐに逃げるように女は出て行ったがな」

「服は?」

「あぁ、着衣のままのプレイだった」

「あぁ、そう」

「もちろん、それなりにはだけていたけどな。けっこうな巨乳ちゃんだったよ」

「いや、しらんけど!」

「男は堂々としたものだった。ゆっくりとパンツとズボンを履きながら、『やぁ、フクロウちゃん』ときたもんだ」

「知り合いかよ」

「あぁ。八木だった」

「八木かー」八木なら、さもありなんと思ってしまう。服部が部長権限で除籍を命じたほどの、飲みサー食い散らかしイケメンだもの。

「『オマエな、いくらなんでも午前中からこんなトコでってのはどうかと思うよ?』って言ってやったさ」

「言ってやった、という程の事は言ってないぞ?」

「まぁ、でも、流石にそこで、パン食って寝るってのは気持ち悪くてさ。八木とちょっと話をした訳だ」

「うん」

「さっきの子、顔はよく見えなかったけど、彼女なのか?と聞いた」

「そりゃ、彼女だろうよ」

「うん、彼女には違いないみたいだけど」

「だけど?」

「ワンオブゼム。ワンオブ彼女ズ」

「あらー」

「一体何人彼女がいるんだと聞いたら八木は1、2、3と指を折って、『とりあえず、この大学内には三人かな』って言って、さらに、4、5、6、7と指を折って、『さぁ、分かんない』だとよ」

「マジかー。そして、また、7が出てきた」

「そうなんだよ。でも、八木曰く『わかんない』だし、7ではないとも言えるし、八木の事だから、7∞ななインフィニティとも言える。非常に恐ろしい」


「あっ!」福呂の話を聞いていて、遅まきながらオレは気が付いた。「フクロウ、オマエ、7がコンプリートって、あれじゃねーのか?七つの大罪!」

「あ、気付いちゃった? そう。服部センパイが傲慢、烏丸が強欲、猿川が憤怒、八木が色欲、だな」

「やっぱりか! それなら、オレに会って7がコンプリートって事は、オレはなんなんだよ!なんの罪だっつんだよ!」

「そりゃあ、オマエ……。怠惰に決まってるだろ?」

 福呂の言葉にオレは返す言葉がない。

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