第4話 猿川

「それでな、一コマ目が終わった後で、オレはセブンイレブンに行ったんだ」福呂の話はまだ続くようだ。

「もう、7に自分から寄っていってるじゃないか。何が『7はダメなんだ』だよ!」オレは呆れてそう言う。

「オマエな、セブンイレブンだけをガチに避け続けられる世の中だと思うなよ。セブンイレブンが目の前にあるのに、ローソンやファミマを探そうってなるか?」

「いや、わざわざ外に出なくても、校内にあるだろ?ローソン」オレは志學館一階のローソンを思い浮かべて言った。

「志學館方面にはさ、先を歩く服部センパイの背中があったんだよ!同じ一コマ目を受けて、そのまま服部センパイの横に連れ添って歩くって、なんの罰ゲームだよ。だから、仕方なく、校外のセブンに行ったんだ。そりゃま、オレだって、一応、セブンイレブンはなるべく避けるようにしてるさ」

「そういう中途半端さが、セブンイレブンの7をも呪いの数字にしてるんじゃね?」

「うぐっ」

 どうやら、オレの解析はクリーンヒットしたらしい。福呂は言葉を詰まらせる。


「とにかくだ。西門から出た先にあるあのセブンに行ったらな、猿川さるかわがいたんだよ」

「猿川?」初めて出てきた知らない名に、オレはハテナマークを浮かべる。

「あぁ、そうか。熊谷は猿川と面識がないんだな。えーっと、そうだな……。猿って動物が苗字についているのに、イメージは狼って感じか。髪は長くてザンバラで。常に怒ってる奴さ」

「あー!知ってるかも。面識はないけど、なんか顔が浮かぶかも。この大学の生徒だよな?」オレは頭の中で『アイツが猿川かも』と記憶の中から一人の男を思い浮かべる。図書館や購買部や学生課で怒鳴り散らしている声がすると思って目を向けたら、大抵長いザンバラ髪の男が吼えていた。

「この大学構内で怒鳴り散らしてる男って、十中八九猿川だと思う。面識はなくても、熊谷が校内で怒鳴り散らしてるザンバラ髪の男を思い浮かべているなら、その男はおそらく猿川だろう」そう言って、福呂は深くため息をついた。その表情は苦笑いを湛えてる。


「それで、猿川がどうしたんだ?」オレは続きを促す。

「あぁ。アイツはセブンの店内で、やっぱり怒鳴り散らしてたのさ。憤怒の形相で店員に詰め寄って、『仏の顔も三度と言うが、オマエ、もう、七回目だからな!』って言ってるんだ。オレは遠巻きにそれを見ていたんだが、どうやら猿川の言ったタバコと違うタバコを出されてキレ散らかしてたみたいだ」

「タバコって、レジの向こうに全部番号が振ってあるじゃん。猿川は番号を言わなかったの? そして、そもそも猿川に仏の顔があるの?」

「どうやらそうらしい。『オレはセブンスターの7ミリって言ったじゃねえか。コレは10ミリだろうが!何度間違えたら気が済むんじゃコラ!』とか言ってた。そして、怒りの沸点の低すぎる猿川に仏の顔はたぶん、ない」

「バカなの?」

「バカなんだ。っていうか、それが猿川なんだ」

「店員さんが気の毒だ」

「ホント、全ての店が『猿川出入り禁止』って宣言したらいいんだ。そうでもしなきゃ、不幸がとめどなく連鎖する」

「そうだな。そして、怒涛の様に7が出てきたな」

「そうなんだよ。今日はとにかく7が目白押しにオレに襲い掛かってくる」


 そう言って、福呂はテーブルの上のスマホにチラと目をやり、「ふぅ」と小さくため息をついた。

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