第3話 烏丸

「話は前後する事になるんだが」福呂は話を続ける。「昨夜は久しぶりに徹マンだったんだ」と。オレは麻雀をやらないが、大まかなルールくらいは知ってるし、徹夜で麻雀を打つ事を徹マンと呼ぶ事くらいは知っている。

「へぇ。今朝がたまで?」

「あぁ。朝五時に解散だった」

「お疲れ。よくやるなぁ。それで、一コマ目の授業受けてるんだから、スゲエよな」オレは神を労い、心から褒め称える。

「まぁ、麻雀に付き合うのも講義に出るのも学生の本分だからな。オレはめちゃくちゃ真面目に大学生をやってるんだ。オマエと違ってな、熊谷」ノートの神は時折、ちょっとイヤミだ。


「で、どうだったよ?勝ったのか?負けたのか?」オレはイヤミを華麗にスルーして、神のご機嫌を伺う。

「あぁ。熊谷、オマエとは面識あるかな。烏丸からすまるってヤツと打ってたんだけど」

「えーっと……。服部センパイの飲みサーで一度か二度は会ってると思うが……。なんとなく狐っぽい顔立ちの……」オレは記憶の中から顎が細くて、吊り上がった細い目の男の顔を掘り当てる。

「そうそう!ソイツ、ソイツ。あぁ、そうか。烏丸ともあの飲みサーで知り合ったんだっけ。アイツは麻雀仲間って認識で、キッカケが飲みサーだったって事をすっかり忘れてた」

「それで、その烏丸がどうかしたのか?」

「アイツ、読みが的確な上に、打ち筋がいやらしいんだよ」

「烏丸に負けたのか」

「昨夜の徹マン……、っていうか、今朝までの麻雀、オレの調子はイマイチだったんだ。ことごとく選択が裏目に出てしまうというか。それでも最後の半荘で、起死回生の手が入ったんだよ。一晩の負けをチャラにするまではいかないが、大きく挽回できるような手が入った」

「ほぉ」

「そして、『これで勝負だ!』と意気揚々と『リーチ』と宣言して牌を切ったら、烏丸が『ロン!』って……。リーチタンヤオチートイドラドラ赤赤で倍満。一応、オレも警戒して、烏丸の捨て牌から、安パイっぽいのを切ってリーチしたんだぜ? 烏丸の河にはイーソーとスーソーがあったからさ。チーソーを切った訳だ。それで、倍満、やってられないよ」

「あぁ、それに七対子チートイツ……、7だな」オレは福呂の流暢な呪文のような言葉の中から、知っている麻雀の役を聞き取ってそう言った。


「そうなんだ。今日は朝一からオレには呪いの7が付きまとっていたんだ」

「なるほど。フクロウにとって、7は験の悪い数字なんだな」

「それにしても、七対子で回し打ってドラをガメてガメて、そしてスジひっかけでリーチするなんて、強欲だと思わないか?」福呂は本当に憎たらしいといった顔でそう言った。麻雀を趣味としていないオレには福呂の言っている言葉に分からないモノが度々出ているので、完全同意はしにくいが「あぁ、そうだな。烏丸は強欲だ。そう思うよ」と、神のご機嫌をとっておく。

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