第2話 服部
「まあ、いいや。この際だから話してやる。オマエで7がコンプリートってのはだな……。えーっと、何から話せばいいものか」福呂は言い澱む。オレはソバをすする。
「今日の一コマ目、【現代社会と法】に出たらさ、服部センパイに会ったんだ」福呂はオレと知り合うキッカケとなった飲みサークルの創設者であり、創設時からずっと部長の、“終わらないモラトリアム”こと、三度の留年を屁とも思ってない先輩の名前を挙げた。
「あぁ、服部パイセン、元気にしてた?」オレはその名の先輩の顔を思い出そうとしながら、福呂に相槌を打つ。
「元気も元気。あの人、なんであんなにいつも元気なんだろな。うちの大学って、四度目の留年アリだっけ? 今日も留年上等ってな感じで大声で話してたよ」
「ハハっ。そっか。相変わらずなんだな。しかし、留年が許される親の財力が羨ましいよ。オレはまあ、大学に足繁くかよってなんかいないけど、単位取得の情報収集と試験だけはいつも必死だ」
「そうだよなー。先輩の同い年の友達って、たぶん、もう、バリバリに働いてる人ばかりなんだろうに、何の負い目も引け目も持ってなさそうで、いつもなんだか偉そうだ」
「あぁ。なんだろな、あの人。愛されて育ちすぎたのか、自己肯定感が半端ないよな、いつも。……、で、なんだよ。服部パイセンがどうしたって?」ソバを完食したオレは福呂に続きを促す。
「ん。あの人、オレの顔を見るなり『よーぉ、フクロウくん。来月の7日、久しぶりに部活やるから。幹事よろしくー』だってさ」
「部活って、飲み会じゃん」オレは笑う。
「うん。あの人、『うちはテニスサークルの皮を被った飲みサーなんかとは一線を画している純然たる飲みサーなんだ』って、変なプライドを拗らせてるよな」
「そうそう。『ただの飲み会じゃない!飲みサーとしての活動なんだから、部員は常にいい店の新規開拓に勤しむべし!』ってなんだよ。なんなんだよ、そのプライド。それなのに、いつも一番にベロベロに酔って潰れてるし」
「でもさ、あの人に従わないと、めんどくさいからなー」
「あぁ。そうだな。あの人の機嫌を損ねると、ネチネチと絶妙に怒りにくい程度に足を引っ張ってくる」
「そうなんだよ。やり過ごすしかない訳だ」
「大変だな」
「それでな」
「うん」
「そもそものオレのラッキーナンバーは6なんだ。福呂って苗字は6が福っぽいだろ? 7はダメなんだ」
「そういうものか」
「あぁ。でも、服部センパイのめんどくささは、その7日の飲み会に異議を唱えるには、めんどくさ過ぎるんだ」
「あー。ご愁傷様」そう言ってオレはソバの残りの汁を飲む。
「傲慢なんだよな、服部センパイ」福呂は深くため息をついた。
テーブルの上の福呂のスマホの画面が一瞬オンになる。何かの通知が来たようだ。福呂はまたすぐさま反応し、そしてすぐに興味を失ったようだ。オレに顔を向けて、「傲慢だと思わないか、服部センパイって」と同意を求める。
「傲慢だな。オレもそう思うよ」うんうんとオレは頷く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます