七禍厄厄
ハヤシダノリカズ
第1話 福呂
「よぉ、フクロウ!久しぶり!」オレは学食の最奥、柱の陰になっているせいで不人気な席として有名な、通称【アナグラVIP】に
「マジかよ……」そう言って、福呂は露骨にげんなりとした表情をオレに見せる。
「おいおい、そんなにイヤそうな顔をしなくてもいいじゃないか。オレは久しぶりに友達に会えて嬉しいってのに」そう言いながら、オレはアナグラV.I.P.ルームにたった一つある四人がけのテーブルの、福呂の対面に天ぷらそばを載せたトレイを置いて座る。
「……、遅い昼飯だな。いや、おやつなのか、それ?」福呂はぶっきらぼうに聞いてきた。
「まぁ、おやつ、かな。小腹空いてたし。ま、朝から何も食ってないけど」オレはそう言って、すぐに蕎麦をすする。福呂は半ばあきらめたような顔をして、読んでいた本をテーブルの上に置いた。【マナーアップ!印象講座】というタイトルが見える。おもしろくなさそうな本だ。
「不摂生は良くないぜ。大体、オマエ、ちゃんと大学に来てるのかよ。ホント、久しぶりに見たぜ、オマエの顔。……、今日だけは見たくなかったけどな」苦々しいといった顔をして、福呂はオレにそう言う。
「ま、フクロウをはじめとした麗しの友情という名のノートのおかげで、なんとか単位は危なげなく取れてるからな。いつもありがとねー! ってか、さっきからなんだよ。オレの顔を見て露骨にイヤな顔したり、今日だけは見たくなかったとかなんとか。……、オレ、オマエに金でも貸してたっけ?」
「バカ言うな、
「じゃあ、なんだよ。久しぶりに会った友人に『会いたくなかった』と言ってしまう理由はなんだよ!」オレは福呂に問いただす。もちろん、ノートを貸してくれる貴重な友達だ。語調は極めてやんわりと、低姿勢な雰囲気を纏いながら冗談めかして、だが。
「なながコンプリートなんだよ」福呂はブスっと言い放つ。
「なな?なながコンプリート?なにそれ、どーゆーコト?」
「だからぁ、世間ではラッキーセブンだなんて7を有難がるけどな。7って数字はオレにとっちゃアンラッキーそのものなんだよ」
「はぁ?なんだ、それ。オマエにとって7がアンラッキーってのは、まあともかくとして。オレを見かけて7がコンプリートってどういう意味だよ」
「……、と、とにかく、オマエに会って7がコンプリートなんだよ、チクショウ。大体、ほとんど大学に来ないくせになんで、今日に限って……。しかもアナグラVIPにいるオレをなんで見つけんだよ」
「そりゃ、オマエ、せっかく久しぶりに大学に来たんだ。ノートを貸してくださる神々をなるべく探すのが信心ってもんじゃないか。学食を一通り見渡して『今日は神々はいらっしゃらないか』と思っても、一応、アナグラVIPまで見ておくべきだと思ってさ」
そう言ったオレに福呂は心底イヤそうな顔をした。
テーブルの上の福呂のスマホが一瞬震え、福呂はすぐさま反応して手に取るが、一瞥した後に、つまらなそうな顔で再びスマホをテーブルの上に置いた。
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