連載中の完了形

物部がたり

連載中の完了形

 連載中の小説や漫画の続きを待つのは精神的に疲れるもので、待つ作品が面白ければなおさらである。

 れいはそんな心労を避けるため小説にしろ、漫画にしろ、アニメにしろ待つ必要のない完結作品だけを読むことにしていた。

 だが、時には連載中の面白い作品に巡り合ってしまう悲しくも喜ばしいことが誰にでもあるだろう。

 れいも誤って連載中の『チュニック』という面白い作品を読んでしまった。


 一巻を読んでから第二巻を探すも見当たらない。

 もしやと思い調べて、連載中であることを知ったときの何ともいえない待ち遠しさと苛立たしさ。

 早く続きが読みたい。

 だが、発行ペースは早くても半年に一度、作家によれば一二年、それ以上ということもざらである。

『チュニック』は半年に一度のペースで発行されるが、巻数を重ねるごとに面白さが増し、謎が謎を呼び、早く読みたい欲求が高まる一方だった。


 ネットは『チュニック』の考察サイトや動画で賑わうが、毎回考察を覆す衝撃の展開の連続に社会現象を巻き起こす。

 あれだけ連載中の作品を待つのを嫌っていたれいも『チュニック』だけは掲載誌まで買って連載を追っていた。

 発売が楽しみでならなかった。

 そんなれいの元に不思議な人物が現れたのは『チュニック』の最新話を待つ、そんな時だった。

「『チュニック』の新刊が読みたくはないか」

 と、不思議な人物はいった。

「『チュニック』の新刊? もう発売されているんですか」


「『チュニック』の新刊が読みたくないか」

 話しがかみ合っていなかった。

「ええ、読みたいですけど……」

「それなら、これをあげよう」

 そういって差し出された単行本は確かに待ちに待っていた『チュニック』の新刊だった。

 表紙の絵から、漫画の内容まで、二次創作の同人漫画とも思えない。


「こ、これ……」

 どこで手に入れたのか訊こうと思ったときには、すでに不思議な人物は消えていた。

 それから数日後、またもその人物は現れた。

「どうだった『チュニック』の新刊で間違いなかっただろう」

「はい……でも、一体どこで手に入れたんですか」

「作者」

「作者……?」

「私がこの物語の作者だからさ」

「『この物語』って……もしかして、あなたが『チュニック』の作者なんですか!」


「この物語の作者さ」

「で、でもどうして僕なんかに、新刊を読ませてくれるんですか……?」

「この物語の作者だからさ」

「はあ……」

 やはり話がかみ合わない。

「これ、新しい巻。読むと良い」

 と作者は前回くれた新刊より、更に新しい新刊をれいにくれた。

「でも……僕だけいいんですか……?」

「読まないの?」

「よ、読みます!」


  *             *


 それから正式に発売された『チュニック』の最新話と、作者からもらった単行本の話を比べて見たが、同じ絵、同じ構図、同じストーリーだった。

 間違いなく、連載中の先の話であった。

 作者はそれからも、れいが新刊を読み終わると、新たな新刊を持って現れた。

 れいは現在、連載されている『チュニック』より、さらに先のクライマックスを読んでいた。


 クライマックスの展開をSNSでつぶやいてみるが、あまりに突拍子な展開に誰も信じてくれる人はいなかった。 

『チュニック』は巻を重ねるごとに面白さを増し、物語はクライマックスという一番面白い巻をれいは読んでいたが、連載を待ち、発売日に追って、ファンたちと考察を楽しんでいたときほどの面白さを感じられなかった。

 連載作品には連載作品でしか味わえない面白さがあることを、れいは知った――。

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