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——コーヒーが大嫌いだった。
苦みが嫌い、という以上に、どこかインテリ臭がするから。
それっぽいもので身を固め、それっぽいことを言って、それっぽいことをしている自分に酔うための飲み物だと、私は本気で思っていた。
そんな私が、コーヒーを飲んだ。
ペットボトル入りの、甘いコーヒーだった。
コーヒーは苦いから嫌いと言う私に、彼が買ってきてくれたのだ。
桜の季節、彼と出会ったのはたまたまだった。
彼も私も、たまたま一人で花見がてらの散歩をしていた。
あ、これなら大丈夫。
それはよかった。
微笑む彼の背後には、八分咲きの桜が彩りを添えている。
こんな場所でのんびりお茶でもしたら、気持ちいいと思ってさ。
言って、彼は持参のマグボトルから甘くないコーヒーを啜る。
同じサークルの同期だった。
彼女がいることは知っていたけれど、別に示し合わせて密会をしているわけでもない。これくらい、平気なんだと思っていた。
彼とはしばらく一緒に花見を楽しんだ後、適当なところで解散した。
その時はまさか、彼の彼女に見られていたなんて思いもしなかった。
——彼との花見以来、ペットボトル入りのコーヒーがお気に入りになっていた。
その日、私は学校内だからと油断していたのかもしれない。
友人と一緒だったわけでもないのに、すぐ戻るからと貴重品だけ持って、荷物を放置したままトイレに立ってしまった。
戻ると、彼女が私のコーヒーを飲んでいた。
私が他の荷物と共に置きっぱなしにしていたペットボトル入りの、甘いコーヒーだった。
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