第3話 第一の危機

 真っ暗な部屋。

 扉も窓も黒い布で覆われているのか、本当に何も見えない。

 ざり、と靴が布ではないものに触れる。

 感触的に、床にビニールシートが敷かれていそうだった。

「……」

 私は躊躇せず、スマホのライトをつけた。

 ここまで何も見えない状況でゴールまでたどり着くのは不可能だ。すずくんはきっとそんなアンフェアなゲームは企画しない。きっと、スマホのライトを頼りに進ませることを前提で考えているだろう。


 ライトをつけるとそこは大きな部屋で、床は予想通りビニールシートが敷かれていた。

 しかし部屋の真ん中以外には長机が敷き詰められていて、長机によって一本道ができている。どうやらそこを通れということらしい。


 とりあえず私は指定された道の先を見る。

 10メートルほど先にはパーティションが置かれていて、奥は見えないようになっていた。

 まずはこの道を通ってパーティションの方まで行けということか。

 きっとこの道の先のあの壁に暗号的な何かが貼られていて、それを解くことで次にいけるのだろう。

 どんな暗号が用意されているのだろう、とワクワクしながら私は大きく一歩踏み出して――――固まる。


 


 必要かな?

 ただの経路に、ビニールシートって、いるかな?

 私にとってのビニールシートとは、飲みサーが合宿場の宴会場に敷くものだ。

 酒を零しても吐いても問題ないように。

 要するに、汚れ防止。

 だったらこのビニールシートの意図は?


 私は慎重に屈んで、目を凝らした。


 すると机と机の間、私が今通っている道の途中に、きらりと光る一本の紐が見えた。


「あぶなっ」


 その紐は天井に繋がっていて、天井には何やら大きな箱がくっついている。

 私は慎重に紐を避けて、奥の壁に辿り着いた。


 第一の危機は、ワイヤートラップ。

 何も考えずに壁まで歩いていたら、その時点で引っかかっていたというわけだ。


 痛みを伴わない肉体的危機とは、汚れのことだったのだろう。

 きっとあのワイヤーに引っ掛かっていたらペンキ的な何かを頭から被っていたんだと思うと、恐怖心が押し寄せてきた。

 あっぶな。

 私はもう一度呟いて、進行方向に向き直る。


 さて、危機はあとひとつだ。

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