第2話 ルール説明

『授業終わり、以下の住所で待っています。3Fについたら電話ください』


 ホワイトデーの日、いつも通り大学で授業を受けていると彼氏からそんなメッセージが飛んできた。

 調べてみるとそこはレンタルスペースと呼ばれる場所で、一日数千円でビルのワンフロアをまるまる借りられるサービスを行っているらしい。

 なんだろう。何かイベントを用意してくれるのかな。

 私はワクワクしながら、教授が話した内容をさらさらとメモしていく。


 そんなことをしているうちに授業が終わり、時刻は十六時過ぎ。

 電車に乗って彼氏に指定された場所へと向かう。


 3Fでエレベータを降りてすぐのところは小さなスペースになっていて、目の前の扉を開けることで、メインフロアに繋がるような構造だった。

 電話をかける。

「あ、すずくん。着いたよ」

「授業おつかれさま。薄々察していると思うんだけど、これは、僕からさっちゃんへ送るホワイトデーのお返し企画。単純にものを用意するだけだと味気がないと思ってちょっとしたゲームを企画したから、楽しんでくれると嬉しいな」


 そう言ってすずくんは、電話越しにもわかるくらい大きく息を吸って。


「ゲームの名前は、『ホワイトデー・クライシス』」


 と言った。



 ホワイトデー・クライシス。

 ホワイトデーの危機らしい。

 なんだろうと思いながら、「ルールは?」と尋ねる。


 私はゲームが大好きだ。

 アナログからデジタルまで、この世全てのゲームをすずくんの次に愛している。

 すずくんもゲームが大好きなので、よく一緒に遊ぶ。それは市販されているものの時もあり、今みたいにオリジナルゲームで遊ぶこともある。

 バレンタインのときは、私からすずくんにオリジナルゲームで遊んでもらうイベントを企画していた。

 だからこれはそのお返しなんだと思う。


「ルールは単純。その扉を開けた部屋の一番奥に僕がいる。そして、そこに至るまでの間に、君に二つの危機クライシスが迫る。君はその二つの危機を回避して、僕に触れることができれば勝利。できなければ敗北。以上なんだけど、何か質問はあるかな?」

「危機って言うのは具体的にどんなもの? 痛いやつ?」

「肉体面は痛くないよ。でも、コンセプトとしては肉体的な危機と、精神的な危機の二つ」

「ふむ」

 痛くない肉体的な危機、と言うのがよくわからないけど。

 多少痛くてもすずくんによるものならいいんだけどな。

「このゲームに、禁止事項はある?」

「そうだね、基本的にはないんだけど、お願いがある。このイベントはお手製のものだから、例えば暗号で閉じられている扉があるとして、壁を蹴破って突破することはたやすいと思う。でも、そういった手法はできればとってほしくはない」

 さすがに彼氏からのプレゼントにそんな野暮なことはしない。

「ほかは何かあるかな?」

「ううん、ない」

 私は首を振って、深呼吸をした。


「じゃあ扉を開けて。『ホワイトデー・クライシス』スタート!」


 ドアノブに手をかける。

 勢いよく開くと、

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