7.ポケットがいっぱいあって便利そうなコートだね
「代理形成体って何なの?」
「私は限りなく君に似せて造られた。そして」
「その辺のアンドロイドとは一線を画す特別製ってこと!」
質問の答えになっていない割に自信満々の代理形成体は、オリジナルである私の許可も得ずにベッドへ腰を掛け話を続ける。
「まだ先の話だけど」
「ある時期に技術革新が起こって急速にアンドロイドが普及するようになるんだよ」
「まぁ、その頃には君の時代の人はみんな死んじゃってるけどねぇ」
「いろんなやつが造られては廃棄されていったよ。」
「中には自我を得たやつもいたりしてさぁ」
よくは知らないが、そういう話を過去の人間に
するのはあまり良くないのではないか。
しかしこうしていると本当に夢の中にいるみたいだ。自分と同じ顔の何者かと並んでベッドに座り、未来のアンドロイド事情を聞かされているなんて。
「それで、君はどうやって、私の魂の消滅?を阻止するの?」
「私は」
「君の為に造られた、君の為の身体。」
「君の意識?心?あれ...何だっけ、精神?」
「もう...しっかりしてよ」
「まぁ、何でもいいんだよ」
「君の魂を、この身体に移す。」
「いまの君の肉体が死んでしまう前にね。」
あり得るか?そんな話。
いくらアンドロイドが普及した時代の技術とはいえ。技術革新やシンギュラリティといった次元の話ではないだろう。出来るわけが─────
「出来るわけがない、って思ったでしょ?」
「分かるよ。私は君の代理形成体だからねぇ」
お前より古い時代の人間なら誰だってそんなこと出来るわけないと思うはずだが。しかし、代理形成体...。私の魂を移せるよう、そのために限りなく私に似せて造られた...。代理、か。
「これで分かってくれたかな?」
「ちょっと信じがたいけどねー」
「後は」
「誰が何のために、だけど」
「私を造ったのは、磐境(いわさか)重工、自動機械部門の主任技術者。」
「でも私が起動した時には、既にその人は行方知れずだったんだよねぇ」
磐境重工...。
聞いたことがないな。まだこの時代には無い企業ということか。しかし磐境とは...。企業につけるような名前かは怪しいところだ。
「何のために造られたか、だけど」
「今、君に死んでほしくない人が居たってことしか分からなくてねぇ」
「申し訳ない」
その時彼女は本当に申し訳無さそうにしており、
分からないことばかりではあるがとても責める気にはなれなかった。彼女の事情についてはよく分からないが、望んで生み出された訳でもない上に、今まで会ったこともない自分のオリジナルとやらのためになぜそこまでしなければならないのか、などと私なら思っていたかもしれないから。
「私が目覚めた時に持っていたのは、君を模して構成された疑似人格と、記憶領域に書き込まれた私の『役割』。オリジナルである君に、この身体を届けるっていうね。」
「あとは...」
「『アレ』ぐらいかなぁ...」
彼女は床に脱ぎ捨てていた黒のモッズコートの内ポケットと外ポケットの全部に、順番に手を突っ込んでは出しを繰り返しながら
「あれ...」「確かこっちに...」「置いてきた...?」「はは...そんなまさか...」
とこちらの不安を煽るような独り言を並べはじめた。ポケットがいっぱいあって便利そうなコートだね、と言おうとしたがやめた。こういう仕草を見ていると
彼女が人間ではないなどとはとても思えなくなってくる。ポケットの捜索が2週目に入るか入らないかのところで、「あっ」という顔で私を見る。
「あはは。これに入れたんだった。」
と言いながら、首から下げたポーチから『アレ』らしきものを取り出す。
『アレ』は見たことのない形の黒い塊のような何かだった。
いや、これはぎりぎりポケットには入らないサイズだと思うが。
「なにこれ?よくみると銃みたいな形だね。」
「ふふふ。これはねぇ...。」
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