6.頭が冴えてきてしまったじゃないか



「いやー探した探した。」

「やぁ」

「初めましてだねぇ」


「えー...」


これが開いた口が塞がらないってやつか。

余命を宣告された時ですらそれほど驚かなかったが。枕元に立っていたのは、私と同じ顔をした何かだった。自分と同じ顔の人と会ってしまうと死ぬ的な話を聞いたことがあるが、それはさすがに理不尽すぎると思った。オカルトやスピリチュアルには疎い為、詳しくは知らないが。

仮に出会ったら死ぬとしても、今みたいに向こうから此方を探してこられた時など、もう打つ手なしではないか。もしくは、死期が迫っていると変なものを見るという話も聞いたりするが、その類のものだろうか。


「うんうん」

「びっくりするよねぇ」

「自分と同じ顔の、人間?が、急に現れたわけだからさぁ」


自分はこんな喋り方だっただろうか。

確かにどう見ても同じ外見なのだが、どこか『もう一人の私』とまでは言えない、『完全な複製』でもない、そう、『似せて作った』...。

そんな雰囲気がある。


「もう少しで眠れるところだったのにさー...」

「何処から入ったのー...?」


「窓から」

「戸締まりはちゃんとしないとだめだよぉ?」


そんな話をしている場合ではないのはわかっているが、目の前に現れた者が何なのか、恐ろしくて聞けないままだ。やはり理解の及ばないものは恐ろしい。


「ごめんごめん、要件を言えって話だよねぇ」

「私は」

「私は君の、鞍部十華の代理形成体。」

「君の肉体の死滅に伴い、魂が消滅するのを阻止するために造られた。」

「今より少し先の時間から来たんだぁ」

「さぁ、君はどこまで信じてくれるかなぁ?」


信じてもらえないの前提なのか。とはいえどれも信じられるわけはないが。しかし...

私と同じ顔のやつが私に会いに来た時点でもう

何が起こってもおかしくはないか...。


突然もう一人の自分が訪問してきたと思ったら...。今より少し先っていつ頃だ。未来から来たということでいいのか。このまま全てを夢だったことにしてもう一度眠りに就くには十分すぎる程常軌を逸した話だと思うが、これが夢だと言われるのもそれはそれでつまらない。


それにしても、私の代理形成体とやらが存在することは認めたとして...。魂の消滅を阻止するための代理形成体...。うーん、わからん。

そもそも魂なんてものが存在するのかというところからだが。オカルトやスピリチュアルには疎いというのに。


あぁ、駄目だ。

頭が冴えてきてしまったじゃないか。


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